森が教えてくれること-06
太陽が西へ傾き始めた頃。
第一班は、野営予定地まであとわずかという場所まで来ていた。
木々の間から差し込む夕陽が、森を黄金色に染めている。
「もう少しだね。」
リリアが地図を見ながら言う。
「予定通り進めてる。」
ノアも頷いた。
「このままなら、日が沈む前には着けそうだ。」
レオンは肩の荷物を軽く持ち直す。
「順調だな。」
「思ったより余裕がある。」
その時だった。
ノアの足が、不意に止まる。
「……?」
視線が森の奥へ向く。
耳を澄ませるように、静かに目を閉じた。
「ノア?」
リリアが不思議そうに声を掛ける。
ノアはゆっくりと周囲を見回した。
風が吹く。
木々が揺れる。
葉擦れの音が聞こえる。
――それだけだった。
「どうした?」
レオンも足を止める。
ノアは少し考え込むように森を見つめた。
「……静かだ。」
「え?」
ミリアが首を傾げる。
「さっきまで聞こえていた鳥の声が、しない。」
三人も耳を澄ませる。
確かに風の音は聞こえる。
木々のざわめきもある。
けれど、鳥のさえずりはいつの間にか途絶えていた。
リリアが小さく呟く。
「本当ね……。」
レオンは周囲を見渡した。
「夕方だからじゃないか?」
「森も静かになる時間だろう。」
ノアは少しだけ考え込み、それから小さく頷いた。
「……そうかもしれない。」
父の言葉が頭をよぎる。
――違和感を覚えたら、立ち止まれ。
――だが、違和感だけで決めつけるな。
確かめろ。
見極めろ。
ノアはもう一度だけ森を見渡した。
木々に不自然な傷はない。
足跡も見当たらない。
風向きも変わっていない。
危険を示すものは、何一つ見つけられなかった。
「ごめん。」
「気にしすぎだったかもしれない。」
そう言って、小さく笑う。
レオンも頷いた。
「慎重なのは悪いことじゃない。」
「その調子で頼む。」
四人は再び歩き始める。
やがて、その背中は夕暮れの森へと溶け込んでいった。
誰も気づかなかった。
四人が立ち止まっていた場所から、さらに森の奥。
深い木陰の中で、一対の赤い瞳が静かに四人を見つめていたことを。
その瞳は音もなく揺れ、やがて闇の中へと消えていく。
森は再び静寂を取り戻した。
まるで、何事もなかったかのように。




