森が教えてくれること-05
昼食を終えた第一班は、再び森の中を歩き始めた。
木漏れ日が揺れ、枝葉の隙間から吹き抜ける風が心地よい。
午前中よりも皆の表情には余裕が生まれていた。
その時だった。
ノアがふと歩みを止める。
「……みんな、ちょっと待って。」
三人も足を止める。
ノアは街道脇へしゃがみ込み、地面を見つめた。
「どうした?」
レオンが尋ねる。
ノアは落ち葉をそっとどける。
「足跡がある。」
リリアも隣へしゃがみ込んだ。
「魔物?」
ノアはゆっくりと首を振る。
「違う。」
「これは鹿だね。」
ミリアが目を丸くする。
「えっ? どうして分かるの?」
ノアは土に残った跡を指差した。
「蹄が二つに割れているだろ?」
「それに歩幅が一定なんだ。」
「慌てて逃げた跡じゃない。」
さらに少し先を指差す。
「ほら、この枝。」
枝の先が不自然に折れている。
「ここを通る時に体が触れたんだと思う。」
リリアが枝の高さを見比べる。
「確かに……。」
「この高さなら鹿くらいね。」
ノアは頷いた。
「もしゴブリンだったら、もっと低い位置の草が踏まれているはずなんだ。」
レオンは腕を組み、感心したように笑う。
「森を読むって、こういうことか。」
「まだまだだよ。」
ノアは少し照れくさそうに笑う。
「父さんなら、何頭いたかくらいまで分かる。」
「俺はそのガレス殿に会ってみたくなった。」
レオンが苦笑すると、リリアもくすりと笑った。
「私も。」
「ノアのお父様のお話を聞いていると、とても厳しい方なのかと思っていたけど……。」
「うん。」
ノアはどこか誇らしげな表情になる。
「厳しいよ。」
「でも、それ以上によく教えてくれる人なんだ。」
その言葉には、父への深い尊敬が滲んでいた。
ミリアはそんなノアの横顔を見つめる。
(この人は、自分が特別だなんて少しも思っていない。)
(全部、お父様に教えてもらったことだって言う。)
けれど、それをここまで身につけるには、どれほど努力を重ねたのだろう。
能力測定では見えなかったものが、一つ、また一つと見えてくる。
ミリアは胸の中で、小さく考えを改めていた。
(ノア君は、最下位なんかじゃない。)
(きっと、まだ誰も本当の実力を知らないだけなんだ。)
その時、レオンが前を向いたまま口を開く。
「だから俺は、お前に周囲の判断を任せた。」
「俺は目の前の敵を見る。」
「リリアは周囲を魔法で警戒する。」
「ミリアは俺たちを支える。」
「そして、お前は森全体を見る。」
ノアは少し困ったように笑う。
「責任重大だね。」
「一人で背負う必要はない。」
レオンは振り返り、穏やかに言った。
「俺たちは班だ。」
「困ったら相談しろ。」
リリアも優しく微笑む。
「四人で考えればいいものね。」
ミリアも力強く頷いた。
「私も、できることは何でもします。」
ノアは三人を見渡し、小さく笑った。
「ありがとう。」
「じゃあ、みんなで無事に帰ろう。」
その言葉に、三人は迷いなく頷く。
森の奥へ向かう四人の足取りは、演習が始まった頃よりも、少しだけ揃っていた。




