森が教えてくれること-03
左の道を進み始めてから、しばらく経った頃だった。
ノアがふいに右手を上げる。
「止まって。」
その一言で、三人はすぐに足を止めた。
レオンは反射的に剣の柄へ手を添える。
「何かいるのか?」
ノアは頷き、小さく前方を指差した。
「あそこ。」
木々の隙間、その先の草むらがわずかに揺れている。
四人は身を低くし、そっと様子をうかがった。
やがて草の中から、小さな角を持つ一匹の魔物が姿を現す。
「ホーンラビット……。」
ミリアが小さく息をのむ。
レオンは静かに剣を抜いた。
「一匹なら問題ない。」
しかし、その瞬間だった。
「待って。」
ノアが小声で制した。
レオンが視線だけで問い返す。
「どうした?」
ノアは風にそっと手をかざした。
葉が揺れる向きを確かめる。
そしてホーンラビットの耳が、反対方向へ向いていることを確認した。
「あの子は、まだ僕たちに気づいてない。」
「風下にいるから、匂いも届いていないと思う。」
リリアが小声で尋ねる。
「だったら、今のうちに倒した方が安全じゃない?」
ノアは静かに首を横へ振った。
「今回の演習は、魔物を倒すことが目的じゃない。」
「無駄な戦闘は、体力も魔力も消耗する。」
「それに……。」
ノアはホーンラビットを見つめた。
「あの子は、僕たちに気づいていない。」
「わざわざ襲いに行く理由もないよ。」
レオンは剣をゆっくりと鞘へ収める。
「なるほど。」
「戦わずに済むなら、その方がいいか。」
ノアは小さく頷く。
「少しだけ遠回りになるけど、あっちから回れば気づかれずに進めると思う。」
四人は物音を立てないよう慎重に進路を変える。
やがてホーンラビットは何事もなかったように草を食み続け、その姿は木々の向こうへ消えていった。
ミリアは胸をなで下ろす。
「戦わなくても、ちゃんと進めるんですね。」
「うん。」
ノアは笑顔で答えた。
「勝つ方法は、一つじゃないから。」
少し離れた高台では、その様子をクラウスとセシルが見守っていた。
クラウスは満足そうに口角を上げる。
「迷わなかったな。」
「ええ。」
セシルも微笑む。
「演習の目的を、誰よりも理解しています。」
クラウスは腕を組みながら森の奥を見つめた。
「剣を振るう強さも必要だ。」
「だが、それ以上に必要なのは……。」
小さく呟く。
「剣を振るわない強さだ。」
一方、第一班は木漏れ日の差す森を歩き続ける。
まだ誰も傷ついてはいない。
けれど四人は、一つの経験を通して確かに学んでいた。
戦わないという選択もまた、勇気ある決断なのだと。




