森が教えてくれること-02
森へ入って一時間ほどが過ぎた。
木漏れ日の差し込む獣道を進んでいた四人の前に、道が二つに分かれている場所が現れる。
一本は緩やかに右へ。
もう一本は左へと続いていた。
レオンが立ち止まり、地図を開く。
「ここか。」
ノアも隣から地図を覗き込む。
リリアが指先で目的地を示した。
「演習資料だと、どちらを通っても野営地へ着くみたい。」
「距離もほとんど変わらないわ。」
レオンは周囲を見回した。
「なら、右でいいか?」
その時だった。
「……少し待って。」
ノアが静かに声を掛ける。
三人は足を止めた。
ノアはしゃがみ込み、道の土を指先で軽く触れる。
続いて落ち葉を一枚持ち上げ、その裏側を見る。
さらに顔を上げ、木々の枝葉へ視線を向けた。
ミリアが不思議そうに尋ねる。
「何を見ているの?」
「昨日の雨の跡。」
ノアは穏やかに答えた。
「昨日は夜に少し降ったでしょう?」
「うん。」
リリアが頷く。
「寮の窓から見えたわ。」
ノアは右の道を指差した。
「こっちは木が少し開けてる。」
「だから雨が直接地面に落ちやすい。」
次に左の道へ目を向ける。
「反対に、こっちは枝葉が多くて雨を受け止めてくれる。」
「だから……。」
右の道へ一歩踏み出し、靴先で地面を軽く押した。
表面は乾いて見えた土が、少し沈み込む。
「見た目より柔らかい。」
「重い荷物を背負って歩けば、足を取られるかもしれない。」
ミリアが小さく声を上げた。
「本当だ……。」
言われて初めて気づく程度の違いだった。
レオンは右の道を見つめ、納得したように頷く。
「左へ行こう。」
誰も異論はなかった。
四人は左の道へ進み始める。
その様子を、少し離れた丘の上から見ている者たちがいた。
クラウスとセシル、それに数名の教師たちだ。
クラウスは腕を組みながら、小さく笑う。
「ちゃんと足元を見てやがる。」
セシルも双眼鏡を下ろし、穏やかに微笑んだ。
「危険を避ける判断を選びましたね。」
「ええ。」
クラウスは頷く。
「強い奴ほど、戦いたがる。」
「だが、本当に強い奴は戦わなくて済む道を選べる。」
その言葉に、セシルは静かに同意した。
「教室で学んだことを、もう実践していますね。」
一方、森を歩く四人は、そんな視線に気づくことはない。
ノアは先頭ではなく、レオンの少し後ろを歩きながら周囲へ目を配る。
必要以上に前へ出ることはない。
それでも、皆が自然とノアの判断を信頼している。
少しずつ。
本当に少しずつではあるが。
第一班は、四人で一つのチームになり始めていた。




