森へ-06
翌朝。
王立ルミナス学園の正門前には、一年生たちが班ごとに整列していた。
大きな荷物を背負い、緊張した表情の者。
友人と笑い合い、緊張を紛らわせている者。
誰もが、これから始まる初めての学外演習に胸を高鳴らせていた。
ノアも背中の荷物を軽く持ち直す。
昨夜母から届いた保存食は、班のみんなで分けて持つことにした。
「準備はいいか?」
クラウス・フェルナーの声が広場に響く。
全員の視線が教壇代わりの石段へ集まった。
クラウスは一人ひとりの顔を見回すと、ゆっくりと口を開く。
「昨日も言ったが、今回の演習で一番大事なのは"生きて帰ること"だ。」
「魔物を倒した数は評価しねぇ。」
「危険を避け、仲間と協力し、全員で戻ってくる。」
「それができた班が、一番優秀だ。」
生徒たちは真剣な表情で耳を傾ける。
「いいか。」
「自分一人で何とかしようとするな。」
「困ったら仲間を頼れ。」
「そして、仲間が困っていたら、迷わず手を差し伸べろ。」
クラウスはそこで一度言葉を切ると、口元に力強い笑みを浮かべた。
「――以上だ。」
「胸を張って行ってこい!」
「はい!」
元気のいい返事が広場に響き渡る。
班ごとに出発の準備が始まった。
第一班も森へ向かって歩き出す。
先頭を歩くレオンが周囲を見回し、後方ではミリアが荷物の位置を気にしている。
リリアは森へ続く街道を見つめ、小さく息を吸った。
「いよいよね。」
「うん。」
ノアも頷く。
「みんなで、無事に帰ろう。」
その一言に、三人は静かに頷いた。
四人は並んで街道を進む。
やがて王都の街並みが遠ざかり、目の前に深い緑が広がってきた。
アルディア演習森林。
王国の若き騎士や魔導士たちが、幾度となく経験を積んできた場所。
入口に立ったノアは、静かに森を見上げる。
木々を揺らす風。
鳥たちのさえずり。
木漏れ日に照らされた獣道。
どこから見ても、穏やかな森だった。
ノアは小さく息を吸い込む。
「……行こう。」
四人はゆっくりと森へ足を踏み入れる。
その背中を、少し離れた場所からクラウスとセシルが見送っていた。
「いい顔をしているな。」
クラウスが腕を組んで呟く。
セシルも穏やかに微笑む。
「ええ。」
「きっと、多くを学んで帰ってくるでしょう。」
四人の姿は木々の間へと消えていく。
まだ誰も知らない。
この演習が、彼らにとって忘れられない二日間になることを。
そして、その森の奥で――。
静かに何かが動き始めていることを。




