森へ-05
演習前日。
授業を終えたノアが男子寮へ戻ると、寮母が声を掛けてきた。
「ノア君、お家から荷物が届いているわよ。」
「ありがとうございます。」
受け取った箱は、両手で抱えるほどの大きさだった。
「……また、こんなに。」
思わず苦笑する。
箱の隅には、見慣れた丸い字で書かれていた。
――ノアへ
その文字を見るだけで、自然と頬が緩む。
部屋へ戻り、丁寧に箱を開ける。
中には布に包まれた保存食や干し肉、焼き菓子、乾燥させた果物が隙間なく詰められていた。
「すごい量だな。」
部屋へ遊びに来ていたレオンが、思わず笑う。
ノアは照れくさそうに頭をかいた。
「母さん、心配性なんだ。」
「『足りないより余る方がいい』って。」
さらに箱の底には、一通の手紙が入っていた。
ノアは封を開き、ゆっくりと読み始める。
読み進めるうちに、その表情は自然と柔らかくなっていく。
「お母様から?」
ちょうど部屋を訪ねてきたリリアが尋ねる。
「うん。」
ノアは少し恥ずかしそうに頷いた。
「『ちゃんとご飯を食べること。夜は体を冷やさないこと。困ったら一人で抱え込まないこと』……だって。」
リリアは思わず微笑む。
「とても優しいお母様ね。」
ノアは苦笑しながら箱の中を見つめた。
その時、部屋の扉が控えめにノックされた。
「あ、あの……。」
ミリアだった。
「明日の集合時間を確認しようと思って……。」
「ちょうどよかった。」
リリアが手招きする。
ミリアは部屋へ入り、机いっぱいに並べられた保存食を見て目を丸くした。
「わぁ……。」
「全部、お母様が?」
「うん。」
ノアは少し照れくさそうに笑う。
「『班のみんなと食べなさい』って書いてあった。」
「だから、よかったら持って行こうと思って。」
ミリアは思わず笑みをこぼす。
「きっと、みんなのことまで考えてくださったんですね。」
「そうかもしれない。」
ノアは箱を見つめながら、小さく頷いた。
「母さんは、昔からそういう人なんだ。」
レオンは腕を組み、穏やかな表情で言った。
「いい母君だ。」
「これだけ準備して送り出してくれるんだ。」
「期待にも応えたくなるな。」
ノアは力強く頷く。
「うん。」
「無事に帰って、『ただいま』って言わないと。」
その言葉に、三人も静かに頷いた。
演習まで、あと一日。
四人は改めて準備を整え、それぞれの部屋へ戻っていく。
初めての学外演習が、いよいよ目前に迫っていた。




