森へ-02
クラウスは名簿を開き、生徒たちを見渡した。
「これから班を発表する。」
「呼ばれた者同士で行動しろ。」
教室に緊張が走る。
誰と同じ班になるのか。
それだけで、演習の難しさは大きく変わる。
「第一班。」
クラウスがゆっくりと名前を読み上げる。
「ノア・アークライト。」
ノアが静かに返事をする。
「はい。」
「レオン・ヴァルハルト。」
「はい。」
「リリア・ローゼンベルク。」
「はい。」
ここまでは、教室から小さなざわめきが聞こえる程度だった。
だが、四人目の名前が告げられた瞬間だった。
「ミリア・エヴァンス。」
「……は、はい!」
少し慌てたような返事。
窓際の席に座っていた少女が立ち上がる。
栗色の髪を肩の辺りで揃え、どこか控えめな雰囲気をまとっている。
制服の胸元には、小さく子爵家の紋章が刺繍されていた。
教室のあちこちから、小さな声が漏れる。
「公爵家と伯爵家が同じ班か。」
「アークライトもいるぞ。」
「エヴァンス家の令嬢って、回復魔法が得意だったよな。」
ミリアは周囲の視線を受け、少しだけ肩をすくめた。
(私で大丈夫かな……。)
(みんな優秀な人ばかりなのに。)
不安そうに視線を落とした、その時。
「よろしく。」
穏やかな声が聞こえた。
見ると、ノアが自然な笑顔でこちらを見ていた。
「一緒に頑張ろう。」
それは気負いも、遠慮もない、ごく当たり前の挨拶だった。
ミリアは一瞬きょとんとした後、小さく笑みを浮かべる。
「……うん。」
「よろしくお願いします。」
そのやり取りを見ていたレオンも口を開いた。
「演習は家柄ではなく、班で戦う。」
「遠慮は無用だ。」
リリアも優しく微笑む。
「分からないことがあったら、何でも相談してね。」
二人の言葉に、ミリアの表情から少しだけ緊張が消える。
「ありがとう……ございます。」
クラウスはそんな四人の様子を横目に見ながら、次の班を読み上げ始めた。
教室では次々と班が決まっていく。
しかし、ミリアの胸の中には、別の思いが芽生えていた。
(ノア・アークライト君……。)
能力測定では最下位だったはず。
けれど、その笑顔には焦りも卑屈さもなかった。
むしろ、自分の方が励まされたような気がする。
(……不思議な人。)
そう感じたことを、まだミリア自身も言葉にはできなかった。




