森へ-01
朝。
一年A組の教室には、どこか落ち着かない空気が漂っていた。
「聞いたか?」
「来週から学外演習らしいぞ。」
「本当に森へ行くの?」
生徒たちは期待と緊張の入り混じった表情で話している。
ノアも教室へ入ると、その話題が耳に入った。
(学外演習……。)
父から何度も話を聞かされてきた、王立ルミナス学園最初の実地訓練。
知識や技術を試すだけではない。
仲間と協力し、生きて帰ることを学ぶ訓練。
その時、教室の扉が勢いよく開いた。
「席につけ!」
低くよく通る声が教室に響く。
担任のクラウス・フェルナーだった。
生徒たちは慌てて席へ着く。
クラウスは教卓に立つと、教室をぐるりと見回した。
「どうやら、もう知ってる奴もいるみてぇだな。」
口元に笑みを浮かべる。
「その通りだ。」
「来週、お前たちは初めての学外演習へ向かう。」
教室がどっと沸いた。
「やった!」
「ついに実戦だ!」
「楽しみ!」
そんな声が飛び交う。
クラウスは腕を組み、大きく咳払いをした。
「浮かれるのは話を聞いてからにしろ。」
教室はすぐに静かになる。
「演習場所は、アルディア演習森林。」
黒板に大きく森の名前を書き込む。
「王国騎士団も新人訓練で使う場所だ。」
「だが安心しろ。」
「一年用に安全は確保されている。」
そう言いながら、森の簡単な地図を描いていく。
「生息している魔物は、主にスライム、ホーンラビット、ゴブリン。」
「どれも、一年生でも対処できる相手だ。」
教室に少し安堵の空気が流れる。
しかしクラウスは、生徒たちを鋭い目で見渡した。
「だからといって、油断するな。」
「魔物は訓練相手じゃねぇ。」
「相手がお前たちを襲う気なら、一瞬の油断が命取りになる。」
先ほどまで浮かれていた教室が、一気に引き締まる。
「勘違いするな。」
クラウスは拳で教卓を軽く叩いた。
「今回の目的は、魔物を倒すことじゃねぇ。」
「仲間と協力し、安全に行動し、無事に帰ってくることだ。」
その言葉を、一人ひとりの目を見ながら告げる。
「無理だと思ったら逃げろ。」
「危険を感じたら仲間を頼れ。」
「帰ってくるまでが演習だ。」
教室は静まり返っていた。
誰も笑わない。
誰も軽く考えていない。
クラウスは満足そうに頷く。
「よし。」
「その顔なら大丈夫そうだ。」
そして表情を少しだけ和らげた。
「演習は班行動で行う。」
「仲間と相談し、役割を決め、互いを支え合え。」
「一人で強い奴より、仲間を生かせる奴の方が強ぇ。」
その言葉は、教室の隅々まで響いた。
ノアも静かに頷く。
(父さんも、同じことを言ってた。)
――強い剣士になれ。
ではない。
――仲間を守れる騎士になれ。
その教えが、胸の奥によみがえる。
クラウスは名簿を手に取った。
「それじゃあ、これから班分けを発表する。」
教室に、再び緊張が走った。




