答えへ至る道-06
放課後。
教室には誰もいなくなっていた。
夕日が窓から差し込み、整然と並んだ机を橙色に染めている。
セシルは教卓の前に立ち、静かに黒板を見つめていた。
そこには、授業でノアが書き加えた一本の線が、まだ消されずに残っている。
「……。」
チョークを手に取る。
だが、すぐには消さなかった。
「答えを教えることは、教師なら誰にでもできる。」
誰に語るでもなく、小さく呟く。
「だが、自ら答えを探そうとする心を育てることは、簡単ではない。」
今日の授業を思い返す。
最初は戸惑っていた生徒たち。
しかし授業の終わりには、誰も教科書を開こうとはしなかった。
皆、自分の頭で考えようとしていた。
それだけで、この授業には意味があった。
セシルは穏やかに微笑む。
「ありがとう、アークライト君。」
「君のおかげで、大切なことを皆に伝えられた。」
そう言って、黒板をきれいに消していく。
一本の線も残さず。
その時、教室の扉が軽く叩かれた。
「失礼する。」
姿を現したのは、クラウス・フェルナーだった。
「まだ残っていたのか。」
「少し授業を振り返っていただけです。」
セシルは笑みを浮かべる。
クラウスは黒板を見回しながら言った。
「来週の学外演習、班分けが決まったぞ。」
「一年A組も、いよいよ実地訓練だ。」
「ええ。」
セシルは頷く。
「教室で学んだことを、実際に試す機会ですね。」
クラウスは腕を組み、少し楽しそうに笑った。
「アークライトの奴、今度は何を見せてくれるか。」
「剣か。」
「知識か。」
「それとも、また俺たちの予想を超えてくるのか。」
セシルも穏やかに笑う。
「きっと、どれでもありませんよ。」
「彼はただ、自分にできることを精一杯やるだけです。」
クラウスは「違いない」と短く笑った。
二人は夕焼けに染まる校庭へ目を向ける。
そこでは、明日のために剣を振る生徒たちの姿があった。
その中には、木剣を握るノアの姿もある。
一振り。
また一振り。
授業で評価されても、変わらず基本を積み重ねる。
その姿に、クラウスは目を細めた。
「やっぱり、あいつは努力をやめないな。」
「ええ。」
セシルは静かに頷く。
「だからこそ、私たち教師も見届けたくなるのでしょう。」
窓の外では、夕日がゆっくりと山の向こうへ沈んでいく。
少年たちの学びは、まだ始まったばかり。
そしてその学びは、間もなく教室を飛び出し、本物の世界へと踏み出していく。




