答えへ至る道-04
セシルは黒板へ歩み寄ると、ノアが書き加えた一本の線を静かに見つめた。
「アークライト君。」
「はい。」
「席へ戻って構いません。」
ノアは軽く一礼し、自分の席へ戻る。
教室には、まだ静かな空気が流れていた。
セシルはチョークを持ち直し、黒板へ向き直る。
「皆さん。」
「今の答えを見て、『正解だからすごい』と思った人はいますか?」
何人かの生徒が、おずおずと手を挙げる。
セシルは優しく頷いた。
「その考えも間違いではありません。」
「ですが、私が皆さんに見てほしかったのは、答えではありません。」
そう言って、ノアが描いた魔力の流れをなぞる。
「アークライト君は、いきなり答えを書きませんでした。」
「まず魔法陣全体を見ました。」
「魔力の流れを確認しました。」
「そして、『なぜこの配置なのだろう』と考えました。」
教室の視線が、再び黒板へ集まる。
「つまり彼は、『正解を知っていた』のではありません。」
「自分で答えへたどり着く道筋を考えたのです。」
レオンは静かに頷いた。
確かにノアは、迷いなく答えを書いたわけではなかった。
何度も魔法陣を見つめ、確認していた。
リリアも、その姿を思い返していた。
(だから先生は、すぐに前へ呼ばなかったのね。)
セシルは生徒たちを見渡す。
「皆さんも、今日すぐにできるようになる必要はありません。」
「ですが、『なぜ』を考える癖は、今日から身につけられます。」
「教科書を読む時も。」
「魔法を練習する時も。」
「剣を振る時も。」
「ただ繰り返すだけではなく、一つだけ『なぜ』を考えてみてください。」
その言葉は、教室に静かに染み渡っていく。
「それを積み重ねた先に、本当の成長があります。」
セシルは微笑みながらチョークを置いた。
「さて。」
「では、今日はもう一問だけ考えてもらいましょう。」
そう言うと、先ほどの魔法陣を消し、新たな術式を描き始める。
今度は水属性の基礎魔法陣。
教室の空気が先ほどとは違っていた。
誰も教科書を開こうとしない。
まず黒板を見つめ、自分の頭で考え始める。
その変化に気付いたセシルは、誰にも分からないほど小さく微笑んだ。
(それでいい。)
(答えを覚えるより、考えることを楽しんでほしい。)
その願いは、確かに一年A組の生徒たちへ届き始めていた。




