答えへ至る道-03
教室中の視線が、ノアへ集まる。
ノアは少し緊張した様子で立ち上がった。
「アークライト君。」
セシルは穏やかに微笑む。
「前へ来てもらえますか。」
「……はい。」
ノアは小さく返事をし、黒板の前へ歩いていく。
チョークを受け取ると、黒板に描かれた魔法陣をしばらく見つめた。
すぐには手を動かさない。
一つひとつの術式を目で追い、頭の中で魔力の流れを確かめる。
その様子を、セシルは静かに見守っていた。
やがてノアは、魔法陣の一か所へ小さな印を付けた。
「僕だったら……。」
「この補助術式を、ここへ移動させます。」
教室がざわつく。
「場所を変えるだけ?」
「そんなので変わるのか?」
ノアは振り返り、少し照れたように笑った。
「変えるのは一か所だけです。」
「でも、その理由があります。」
黒板へ一本の線を引きながら説明を始める。
「この術式は、魔力をここで一度まとめてから火球を形成しています。」
「だから発動は安定します。」
「でも、その前に補助術式が入っているので、一瞬だけ魔力の流れが遠回りになっています。」
ノアはチョークで魔力の流れを矢印で描き加えた。
「もし補助術式をこちらへ移せば、魔力は自然な流れのまま火球を形成できます。」
「術式そのものは変えないので、安全性もほとんど変わりません。」
教室は静まり返っていた。
誰もが黒板とノアの説明を交互に見つめている。
レオンは腕を組んだまま、小さく息を漏らした。
「……なるほど。」
「そういう見方があったのか。」
リリアも目を輝かせる。
「魔法陣全体を見て考えてる……。」
ノアは説明を終えると、不安そうにセシルを見た。
「あの……。」
「僕は、こう思ったんですけど。」
「違っていたら、ごめんなさい。」
その言葉に、教室の何人かが驚いた。
これだけ筋道を立てて説明しておきながら、最後まで自分の考えを押し付けない。
セシルは静かに頷いた。
「ありがとう、アークライト君。」
そして黒板の魔法陣を見つめながら、生徒たちへ向き直る。
「皆さん。」
「今の説明を聞いて、どう感じましたか。」
一人の生徒が恐る恐る手を挙げる。
「……教科書を覚えるだけじゃ、思いつかなかったです。」
「その通りです。」
セシルは優しく微笑んだ。
「アークライト君は、教科書を否定したわけではありません。」
「教科書で学んだことを土台にして、『もっと良くできないか』と考えたのです。」
そう言ってノアの書き加えた術式を指した。
「魔法を学ぶということは、答えを暗記することではありません。」
「なぜそうなるのかを理解し、自分の頭で考え続けることです。」
教室には、誰一人として私語をする者はいなかった。
生徒たちは皆、黒板に残る一本の線を見つめている。
それは魔法陣の一部を書き換えただけではない。
"学び方"そのものを変える一本の線だった。




