答えへ至る道-02
セシルは黒板へ描いた魔法陣を軽く叩いた。
「これは皆さんもよく知っている、火球魔法の基礎術式です。」
教室中が頷く。
一年生になって最初に学ぶ魔法陣の一つ。
知らない者はいない。
「この術式でも、火球魔法は問題なく発動します。」
「ですが――」
セシルはチョークで魔法陣の一部を囲んだ。
「私は、この構成には改善の余地があると考えています。」
その一言で、教室がざわついた。
「改善?」
「教科書の術式ですよ?」
「変えていいんですか?」
そんな声があちこちから上がる。
セシルは穏やかに頷いた。
「もちろんです。」
「教科書は、学ぶための道しるべです。」
「ですが、絶対に変えてはならないものではありません。」
生徒たちは思わず顔を見合わせる。
教科書を疑う。
そんな発想は、これまで一度もなかった。
「十分ほど時間を取ります。」
「より効率よく魔力を流す方法があると思う人は、自分なりの答えを考えてみてください。」
教室は静まり返った。
全員が黒板の魔法陣を見つめる。
レオンは腕を組み、真剣な表情で術式を追っていた。
(魔力の流れは……ここから、ここへ。)
(いや、変えると発動しなくなるか。)
剣だけでなく魔法も優秀な彼だからこそ、簡単には答えを出さない。
一方、リリアはノートへ何度も魔法陣を書き写していた。
(魔力量を抑えるなら……。)
(でも先生は"効率"って言ったわ。)
(魔力消費じゃない……。)
何度も書き直しながら、小さく唸る。
教室のあちこちで、鉛筆の走る音だけが響いていた。
ノアもまた、黒板をじっと見つめている。
すぐに答えを書こうとはしない。
魔法陣全体を目で追い、頭の中で魔力の流れを何度も組み立てていく。
(火球の形成までは問題ない。)
(でも、この補助術式……。)
(どうしてここに置いてあるんだろう。)
昨日読んだ研究書の一節が脳裏をよぎる。
――魔力は、流れを妨げない構成ほど安定する。
ノアはすぐに結論を出さず、もう一度最初から術式を見直した。
焦って答えを出せば、見落としが生まれる。
父から何度も教えられたことだ。
――急ぐな。
――確かめろ。
その教えを胸に、ノアは静かに思考を巡らせ続けた。
十分後。
セシルは教卓の前に立ち、生徒たちを見渡した。
「さて。」
「何か気付いた人はいますか?」
教室には、少し重たい沈黙が流れた。
誰も、自信を持って手を挙げられない。
そんな中――。
一人の生徒が、おずおずと右手を挙げた。
「……はい。」
ノア・アークライトだった。




