答えへ至る道-01
朝日が王立ルミナス学園の校舎を優しく照らしていた。
まだ登校する生徒もまばらな時間。
訓練場では、一人の少年が木剣を振っていた。
「はっ!」
鋭い踏み込み。
無駄のない一閃。
木剣を振るたび、乾いた音が静かな朝に響く。
一振り。
また一振り。
決して力任せではない。
父から教わった基本を、一つひとつ確かめるように剣を振る。
「……九百九十八。」
「……九百九十九。」
「……千。」
ノアはゆっくりと木剣を下ろした。
額には汗が滲んでいる。
肩で息をすることもなく、深く一礼した。
「ありがとうございました。」
誰に向けた言葉でもない。
幼い頃から続けてきた、一日の始まりの習慣だった。
木剣を布で丁寧に拭き、寮へ戻る。
身支度を整えると、教室へ向かった。
◇ ◇ ◇
一年A組。
始業までは、まだ少し時間がある。
ノアは鞄から一冊の研究書を取り出した。
昨日、図書館で借りた古い魔法理論の本だ。
「昨日は途中までしか読めなかったから……。」
ページを開いた、その時だった。
「おはよう、ノア。」
聞き慣れた優しい声。
「おはよう、リリア。」
リリアは本の表紙を見ると、小さく笑った。
「朝から勉強?」
「うん。」
ノアは少し照れくさそうに笑う。
「朝稽古を少し早く終えたから、続きを読もうと思って。」
「朝稽古も、ちゃんとしてきたのね。」
「毎日の習慣だから。」
ノアは当然のように答えた。
「父さんが、『一日休めば、自分が分かる』って。」
「だから、できるだけ欠かしたくないんだ。」
その言葉を聞いたリリアは、心の中で感心する。
(やっぱり、この人は努力を当たり前に続けられる人なんだ。)
そこへ、教室へ入ってきたレオンが二人に気付いた。
「おはよう。」
「おはよう、レオン。」
「おはよう。」
レオンはノアの机に置かれた研究書を見て、思わず笑う。
「朝から本か。」
「俺も朝稽古はしてきたが、その後に勉強までは頭が回らん。」
ノアは苦笑した。
「昨日の続きが気になっちゃって。」
「面白いんだ、この本。」
「相変わらずだな。」
レオンは肩をすくめる。
「俺は剣を振っていると落ち着くが、お前は本を読んでいても楽しそうだ。」
「剣も好きだよ。」
ノアは穏やかに笑った。
「でも、本を読むと新しい発見があるから。」
「その知識が、剣にも役立つことがあるんだ。」
その一言に、レオンは少し驚いた表情を見せる。
「知識が……剣に?」
「うん。」
「相手の癖を知ることも、魔物の特徴を知ることも、本で学べるから。」
「なるほど。」
レオンは納得したように頷いた。
「だから、お前はあんな戦い方ができるのか。」
三人が笑い合っていると、始業を告げる鐘が鳴り響く。
ほぼ同時に教室の扉が開いた。
紺色のローブをまとったセシル・アストレアが、静かに教室へ入ってくる。
「皆さん、おはようございます。」
「おはようございます!」
生徒たちの元気な挨拶が響く。
セシルは教卓へ立つと、教科書には手を伸ばさず、生徒たちをゆっくり見回した。
「今日は、いつもとは少し違う授業をします。」
その一言に、教室の空気がわずかに変わる。
「教科書は閉じてください。」
生徒たちは戸惑いながらも教科書を閉じた。
セシルは白いチョークを手に取り、黒板へ向かう。
「今日の授業は、答えを覚える授業ではありません。」
さらさらと、一つの魔法陣が黒板へ描かれていく。
火球魔法の基礎術式。
一年生なら誰もが知る、基本の魔法陣だった。
「皆さん自身の頭で考え、答えを導いてもらいます。」
静まり返る教室。
セシルは穏やかに微笑んだ。
「――では、始めましょう。」




