書物の向こう側-06
図書館の閉館を告げる鐘が鳴り響く。
ノアは顔を上げると、名残惜しそうに研究書を閉じた。
「もうこんな時間か……。」
夢中になって読んでいると、時間が過ぎるのはあっという間だった。
借りられる本を数冊選び、受付へ向かう。
「今日はこの三冊でお願いします。」
司書は本の表紙を見て、思わず苦笑した。
「相変わらず渋い本を選ぶねぇ。」
ノアは少し照れたように笑う。
「まだ全部は理解できないんですけど、続きを読んでみたくて。」
「その探究心は大切にするといい。」
司書は貸出の手続きを終えると、本を丁寧にノアへ手渡した。
「ありがとうございます。」
軽く頭を下げ、図書館を後にする。
夕暮れだった空は、すっかり夜へと変わっていた。
石畳を照らす魔導灯の淡い光。
心地よい夜風が学園の中庭を吹き抜ける。
ノアは借りた本を抱えながら、ゆっくりと寮への道を歩いていた。
「今日は楽しかったな。」
思わず笑みがこぼれる。
魔法理論について語り合えたこと。
自分の考えを聞いてもらえたこと。
どれも新鮮で、とても嬉しかった。
「セシル先生、すごかったな。」
「やっぱり先生って、知ってることが多い。」
そう呟きながら夜空を見上げる。
無数の星が、静かに瞬いていた。
「もっと勉強しよう。」
「もっと知れば、きっと父さんみたいに誰かを助けられる。」
その言葉に迷いはなかった。
ノアにとって知識とは、人に勝つためのものではない。
誰かを守るためのもの。
それが、ガレスから教わった生き方だった。
一方その頃。
図書館の窓辺では、セシルが静かに外を眺めていた。
夜道を歩くノアの後ろ姿が、小さく見える。
「……不思議な少年だ。」
今日のやり取りを思い返す。
古い研究書を読み解く知識。
理論を組み立てる思考力。
そして、それを鼻にかけることのない謙虚さ。
どれを取っても、一年生とは思えなかった。
「だが……。」
セシルは小さく微笑む。
「だからこそ、教えがいがある。」
窓に映る自分の姿を見て、ふっと笑う。
「いや。」
「もしかすると、教えられるのは私の方かもしれないな。」
静かな図書館に、その独り言だけが溶けていく。
学園の夜は、更けていく。
まだ誰も知らない。
一人の少年が積み重ねてきた努力が、少しずつ周囲の世界を変え始めていることを。
そしてその少年自身は、明日もまた変わらず図書館へ足を運び、新しい一冊との出会いを楽しみにしていることを。




