押し花の想い-06
夜。
女子寮は静かな眠りに包まれようとしていた。
窓の外には、満天の星空。
リリアは机の前へ座り、小さな木箱をそっと取り出す。
蓋を開けると、白い布に包まれた押し花が姿を現した。
色は少しだけ薄くなっている。
それでも、花びらはあの日の面影を残していた。
リリアは優しく微笑む。
「今日ね。」
小さく語りかける。
「ノアと、昔のお話をしたの。」
返事はない。
それでも、胸の内を話したくなる。
「細かいことは忘れちゃってたみたい。」
少しだけ寂しそうに笑う。
「でもね。」
「約束は、ちゃんと覚えていてくれた。」
その一言を思い出すだけで、自然と笑みがこぼれる。
――また会おう。
幼い日の約束。
その約束があったから、リリアは諦めなかった。
剣術も。
魔法も。
貴族としての勉強も。
いつか胸を張って、あの少年の隣に立てる自分になりたい。
その一心で歩き続けてきた。
押し花をそっと両手で包み込む。
「やっと、また会えた。」
静かな声が夜に溶ける。
「だから今度は……。」
リリアは窓の外に浮かぶ月を見上げた。
同じ月を、ノアもどこかで見ているだろうか。
「あなたが困った時は、私が支えたい。」
それは恋人になりたいという願いよりも、もっと素直な想いだった。
十年前。
救われた少女は、守られるだけの存在だった。
でも今は違う。
同じ学園で学び、同じ未来を目指す仲間になれた。
「少しずつでいい。」
「あなたの力になれるように頑張るね。」
押し花を木箱へ戻し、布を丁寧にかける。
蓋を閉じる音は、とても優しかった。
木箱を引き出しへしまうと、リリアは明かりを消す。
ベッドへ横になると、不思議なくらい心が穏やかだった。
明日もまた、ノアに会える。
その当たり前が、何より幸せだった。
窓から差し込む月明かりが、静かな部屋を淡く照らしている。
その光はまるで、十年前に二人を見守っていた森の木漏れ日のように、優しくリリアを包み込んでいた。




