森の約束-05
森の出口までは、あと少し。
木々の隙間からは夕焼けに染まる空が見え始めていた。
「もうすぐ着くね。」
リリアが安心したように笑う。
「うん。出口まで行けば――」
その時だった。
ふっ、と風が止んだ。
「……あれ?」
ノアは思わず足を止める。
さっきまで頬を撫でていた風が、まるで最初から存在しなかったかのように消えている。
葉が揺れない。
草も揺れない。
耳を澄ませても、鳥のさえずりが聞こえなかった。
「……静か。」
リリアも不安そうに辺りを見回す。
ノアはゆっくりと森の奥へ視線を向けた。
何かがおかしい。
理由は分からない。
でも、胸の奥がざわつく。
今すぐここから離れなければいけない。
そんな気がした。
その瞬間。
バサバサバサッ!!
木々の間から、鳥の群れが一斉に飛び立った。
「きゃっ!」
驚いたリリアがノアの腕を掴む。
「大丈夫。」
ノアはそう言ったものの、自分の心臓も早鐘のように鳴っていた。
鳥だけじゃない。
少し離れた茂みから、ウサギや鹿まで一目散に駆け抜けていく。
まるで、何かから逃げるように。
「ノア……。」
震える声で名前を呼ばれる。
ノアはぎゅっと唇を結んだ。
「行こう。」
そう言って歩き出そうとした、その時。
――ズン。
地面が、小さく揺れた。
二人は同時に立ち止まる。
聞き間違いではない。
確かに大地が震えた。
しかも、一度では終わらない。
――ズン。
――ズン。
――ズン。
重く、ゆっくりとした振動。
何か巨大なものが、一歩ずつ近づいてくる。
ノアは無意識にリリアの前へ立っていた。
自分でも、どうしてそうしたのか分からない。
ただ、そうしなければいけないと思った。
「ノア……?」
「大丈夫。」
小さな声だった。
自分に言い聞かせるような声。
それでも、リリアを安心させようと笑顔を作る。
その時。
森の奥で、一本の大木がゆっくりと傾いた。
ミシ……。
ミシミシッ――。
次の瞬間。
――ドォォォン!!
轟音とともに、大木が地面へ倒れ込む。
土煙が舞い上がり、鳥たちが悲鳴のような鳴き声を上げながら空へ逃げていった。
煙の向こう。
暗闇の中で、二つの紅い光が静かに浮かぶ。
まるで夜そのものが目を開いたようだった。
ぞくり、と全身が震える。
本能が叫んでいる。
逃げろ、と。
今すぐ逃げろ、と。
それでも。
ノアは震える足を一歩だけ前へ踏み出した。
木の枝で作った子ども用の剣を握り締める。
背中では、リリアが小さく息を呑んだ。
ノアは振り返らない。
震える声を必死に押さえ込み、ゆっくりと言った。
「……大丈夫。」
一度だけ深く息を吸う。
そして、幼い少女を守るように両手を広げた。
「君は――僕が守る。」
紅い双眸が、ゆっくりと細められた。




