森の約束-04
花冠を頭に乗せたリリアは、何度も嬉しそうに触れていた。
「かわいい……。」
「似合ってるよ。」
「ほんと?」
「うん。」
ノアが頷くと、リリアは照れくさそうにはにかんだ。
その笑顔につられて、ノアも笑う。
「そろそろ帰ろうか。」
「うん。」
二人は並んで森の小道を歩き始めた。
ノアは薬草の入った籠を抱え、リリアは花冠を落とさないように何度も頭を押さえている。
少し歩いたところで、リリアが小さく首をかしげた。
「ノアのおうちは、この近くなの?」
「うん。歩いて三十分くらい。」
「遠いんだ。」
「慣れてるから平気だよ。」
「毎日この森を歩くの?」
「剣の練習もここですることがあるよ。」
「森で?」
「広い場所があるんだ。」
「見てみたい!」
「え?」
「ノアが剣を振るところ!」
期待に満ちた瞳で見つめられ、ノアは少し困ったように笑った。
「そんなにすごくないよ?」
「でも五百回も振るんでしょ?」
「うん。」
「だったら、きっとすごい!」
そんな真っ直ぐな言葉に、ノアは少しだけ顔を赤くした。
「じゃあ……今度ね。」
「約束?」
「約束。」
ノアが小指を差し出す。
リリアは少し不思議そうに眺めた。
「これ、なあに?」
「あれ?」
ノアは目を丸くした。
「知らない?」
リリアは首を横に振る。
「約束するときにやるんだ。」
「へぇ。」
恐る恐る、小さな指を絡める。
二人の小指が、ぎこちなく結ばれた。
「これで約束。」
「ふふっ。」
リリアが笑う。
その笑顔が嬉しくて、ノアも笑った。
少し歩くと、小川が見えてきた。
透き通った水の中を、小さな魚が泳いでいる。
「きれい……。」
リリアは思わずしゃがみ込み、水面を覗き込んだ。
その横で、ノアも同じようにしゃがむ。
「この川ね、夏になるともっと魚が増えるんだ。」
「そうなの?」
「兄さんとよく捕まえるんだ。」
「いいなぁ。」
「リリアも来る?」
「行きたい!」
「じゃあ夏になったら。」
「ほんと?」
「うん。」
「約束が増えた。」
リリアは嬉しそうに指を折って数える。
「剣を見る約束。」
「お魚を捕る約束。」
「あとね……。」
少し考えてから、にっこり笑った。
「また遊ぶ約束。」
「もちろん。」
ノアは迷わず頷いた。
「僕も、リリアと遊びたい。」
その言葉を聞いたリリアは、少しだけ頬を赤く染める。
胸の奥が、ぽかぽかと温かくなる。
さっきまで怖くて泣いていたことなんて、もう忘れてしまいそうだった。
二人は夕日に照らされながら、ゆっくりと森の出口を目指す。
どこにでもある、ありふれた一日。
この時の二人はまだ知らない。
この「またね」という約束が、想像もしなかった運命へとつながっていくことを。




