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神枷を宿す少年は、大切な人を守るため剣を振る  作者: なごやかたろう
森の約束

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3/11

森の約束-03

 二人で昼食を食べ終える頃には、リリアの表情から涙はすっかり消えていた。

 木漏れ日を受けて揺れる金色の髪が、さっきまで泣いていた子とは思えないほど明るく見える。


「……ありがとう。」


 リリアはもう一度、小さく頭を下げた。


「どういたしまして。」


 ノアは照れくさそうに笑う。

 誰かにお礼を言われるのは、少しだけくすぐったい。

 空になった布をたたみながら、リリアがふと尋ねた。


「ノアは、この森によく来るの?」

「うん。薬草を採りに来たり、木の実を拾ったりかな。」

「一人で?」

「父さんや兄さんと来ることもあるけど、今日は母さんに頼まれたんだ。」


 そう言って、足元に置いた籠を見せる。

 中には丁寧に分けられた薬草がぎっしりと入っていた。


「すごい……。」

「間違えると薬にならないから、ちゃんと葉っぱの形を見ないといけないんだ。」


 ノアは一枚の葉を手に取り、裏表を見せながら説明する。


「ほら、こっちは葉っぱの縁がギザギザ。でも、こっちは丸いでしょ?」

「ほんとだ……!」


 リリアは目を輝かせた。


「ノア、何でも知ってるの?」

「そんなことないよ。」


 ノアは慌てて首を振る。


「父さんに教えてもらっただけ。」

「優しいお父さんなんだね。」

「うん。でも剣の練習は厳しいよ。」

「剣?」


 リリアが興味津々に身を乗り出す。


「毎朝やってるんだ。」

「毎朝?」

「うん。」

「今日も?」

「朝やってきたよ。」

「何回くらい?」


 ノアは少し考えてから答える。


「五百回くらいかな。」

「ご、ごひゃく!?」


 リリアの目が丸くなる。


「そんなに振るの?」

「うん。でも帰ったら、また五百回やるよ。」

「えぇっ!?」


 思わず大きな声を出したリリアは、慌てて口を押さえた。


「つ、疲れないの?」

「疲れるよ?」


 ノアは当たり前のように答える。


「でも父さんが、『毎日少しずつ積み重ねることが一番大事だ』って。」


 その言葉を口にするノアは、どこか誇らしげだった。


「毎日続けてたら、強くなれるの?」


 その問いに、ノアは少しだけ困ったように笑う。


「……どうだろう。」

「え?」

「兄さんの方がずっと強いし、僕はまだまだだから。」


 六歳とは思えないほど控えめな答えだった。

 それでもリリアは、首を横に振る。


「でも、ノアはすごいよ。」

「え?」

「だって、五百回なんて、わたし絶対できないもん。」


 その真っ直ぐな言葉に、ノアは少しだけ照れたように頬をかいた。


「ありがとう。」


 近くに咲いていた白い花が風に揺れる。

 ノアは一本摘み取ると、器用な指先で茎をくるりと編み始めた。


「わぁ……。」


 リリアは思わず声を漏らす。

 一本、また一本。

 花を傷つけることなく編み込んでいく小さな手は、驚くほど丁寧だった。

 やがて、小さな花冠ができあがる。


「はい。」

「これ……わたしに?」

「うん。」


 ノアは少し照れながら笑う。


「泣いてるより、笑ってる方が似合うと思うから。」


 リリアは花冠を受け取り、そっと頭に乗せた。


「……ありがとう。」


 その笑顔は、森に咲くどの花よりも綺麗だった。

 そして、その笑顔を見たノアもまた、自然と笑みを浮かべていた。

 二人はまだ知らない。

 この何気ない一日が、これから先の人生を大きく変えていくことを。

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