森の約束-02
少女は怯えた小動物のように、ノアをじっと見つめていた。
泣き止もうとしているのだろう。
何度も袖で涙をぬぐうけれど、新しい涙がぽろぽろとこぼれてしまう。
ノアはそれ以上近づかなかった。
急に近寄れば、きっと怖がらせてしまう。
父からも教わっていた。
『困っている人ほど、安心させてやれ。急かすな。相手の歩幅に合わせるんだ』
だからノアは、その場にしゃがみ込んで優しく微笑んだ。
「僕はノア。君は?」
少女は口を開きかけて、また閉じる。
知らない男の子に名前を教えていいのか迷っているようだった。
少しの沈黙のあと、小さな声が返ってくる。
「……リリア。」
「リリアちゃんか。かわいい名前だね。」
その一言に、少女は少しだけ目を丸くした。
名前を褒められたことが、少し嬉しかったのかもしれない。
「迷子?」
こくり、と小さく頷く。
「お父さんとお母さんは?」
「……わからない。」
また涙があふれそうになる。
ノアは慌てて話題を変えた。
「お腹、空いてない?」
その瞬間。
「……ぐぅ。」
森の静けさに、小さなお腹の音が響いた。
リリアは顔を真っ赤にして両手でお腹を押さえる。
「あ……。」
恥ずかしそうに俯く姿に、ノアは思わず笑ってしまった。
「あ、ごめんね。笑ったんじゃなくて……僕もお腹空いてたから。」
そう言うと、背負っていた小さな袋を下ろし、中から布に包まれた昼食を取り出す。
母が朝早く作ってくれたサンドイッチだった。
ノアは迷うことなく包みを開き、半分をリリアへ差し出す。
「はい。」
リリアは驚いたように目を見開く。
「……でも。」
「一人で食べるより、二人で食べた方がおいしいから。」
「でも……。」
「母さんがね、『困っている人がいたら助けなさい』って。」
少し照れくさそうに笑うノアを見て、リリアは恐る恐るサンドイッチを受け取った。
「……ありがとう。」
その声は、さっきより少しだけ明るかった。
二人は大きな木の根元に並んで腰を下ろす。
しばらく無言で食べていると、リリアが小さく呟いた。
「……おいしい。」
「母さんの料理は世界一なんだ。」
どこか誇らしげに胸を張るノアに、リリアはくすっと笑う。
その笑顔を見たノアも、つられるように笑った。
森の中に、さっきまでの泣き声はもうなかった。




