森の約束-01
木々の隙間から差し込む木漏れ日が、森の小道をまだらに照らしていた。
鳥のさえずりと、葉を揺らす風の音だけが響く穏やかな昼下がり。
そんな静かな森に、小さな足音がひとつ。
六歳の少年、ノアは両手いっぱいに薬草を抱えながら、慎重に足を進めていた。
「これで母さんに頼まれた分は揃ったかな……」
しゃがみ込んでは葉の形を確かめ、違えば元の場所へ戻す。
父から教わったことがある。
『必要なものだけをいただいて、森には礼を忘れるな』
だからノアは、薬草を摘み終えるたびに、小さく頭を下げるのが習慣になっていた。
「よし、帰ろう」
籠を抱え直した、その時だった。
「……っ、ひっく……」
どこからか、小さな泣き声が聞こえた。
ノアはぴたりと足を止める。
風の音かと思った。
だが違う。
「……誰か、いるの?」
耳を澄ます。
「……うぅ……」
やっぱり聞こえる。
子どもの泣き声だ。
迷子だろうか。
それとも転んでけがをしたのだろうか。
ノアは少しだけ空を見上げた。
日が傾き始めている。
もう少しすれば森は暗くなる。
「急がないと」
そう呟くと、ノアは声のする方へ駆け出した。
草木をかき分け、小さな斜面を越える。
すると一本の大きな木の根元で、小さく膝を抱える少女の姿が見えた。
淡い金色の髪は枝葉が絡まり、白いワンピースは泥で汚れている。
靴は片方しか履いておらず、目元を何度もこすったせいで頬まで涙の跡が伸びていた。
ノアは慌てて駆け寄ろうとして――ふと足を止めた。
知らない人が急に近づいたら、きっと怖がらせてしまう。
そう思ったからだ。
少し離れた場所でしゃがみ込み、少女と目線を合わせる。
「……君、泣いてるの?」
少女はびくりと肩を震わせ、恐る恐る顔を上げた。
大きな碧い瞳と、ノアの視線が初めて交わる。
――それが、二人の運命の始まりだった。




