押し花の想い-04
女子寮。
夕食と入浴を終えたリリアは、自室の机へ静かに腰を下ろした。
窓の外では、夕焼けがゆっくりと夜へ溶けていく。
机の引き出しを開ける。
一番奥に、大切にしまわれた小さな木箱があった。
両手でそっと取り出し、ゆっくりと蓋を開ける。
中には、一枚の白い布。
その布を丁寧にめくると、小さな押し花が姿を現した。
白い花びらは、十年という歳月の中で少しだけ色褪せている。
それでも、形は美しく残っていた。
リリアは優しく指先を添える。
「今日も元気だったよ。」
誰に話しかけるでもなく、小さく微笑む。
「約束、ちゃんと守ってくれたの。」
胸の奥が温かくなる。
嬉しくて。
少しだけ泣きそうになる。
その時だった。
コンコン、と部屋の扉が叩かれる。
「リリア、いる?」
「どうぞ。」
扉を開けて入ってきたのは、同じ一年A組の少女だった。
「明日の課題、一緒に確認しようと思って……。」
そこまで言いかけて、少女は机の上へ目を向ける。
「あ、ごめん。」
「何か見てた?」
リリアは慌てず、柔らかく笑う。
「大丈夫よ。」
「ちょっと昔を思い出していただけ。」
少女は押し花を覗き込み、目を丸くした。
「綺麗なお花。」
「すごく大事にしてるんだね。」
リリアは静かに頷く。
「ええ。」
「私の、一番の宝物なの。」
「家族からもらったの?」
一瞬だけ。
リリアは押し花へ視線を落とす。
そして、優しく微笑んだ。
「……大切な人から。」
その言葉に少女はにっこりと笑う。
「そっか。」
「きっと、その人も優しい人なんだね。」
リリアは小さく頷く。
「世界で一番、優しい人よ。」
それは迷いのない答えだった。
少女はそれ以上尋ねることはせず、机へ教科書を広げる。
「じゃあ、課題やろっか。」
「うん。」
リリアは木箱へ押し花を戻す。
布をかけ、そっと蓋を閉じる。
まるで、大切な思い出を優しく包み込むように。
木箱を引き出しへしまったリリアの表情は、とても穏やかだった。
明日もまた、ノアと同じ教室で学べる。
その当たり前が、今の彼女には何より幸せだった。




