押し花の想い-01
翌朝。
王立ルミナス学園一年A組の教室は、始業前にもかかわらず賑やかな声で満ちていた。
「昨日の実戦、すごかったよな。」
「やっぱりレオンは強かった。」
「リリア様の魔法も綺麗だったな。」
教室のあちこちで話題に上るのは、昨日の実戦授業。
レオンは席で静かに本を読み、当の本人は周囲の会話に興味を示さない。
リリアは友人たちに囲まれながらも、時折ある席へ視線を向けていた。
窓際の最後列。
ノアはいつも通り、一冊の分厚い本を開いていた。
周囲の声など気にする様子もなく、静かにページをめくっている。
「ねえ。」
女子生徒の一人が小声で言った。
「昨日のノア君、ちょっとすごくなかった?」
「え?」
「ほら、レオン君に指示を出してたでしょ。」
「あれって偶然なのかな?」
別の女子生徒が首を傾げる。
「偶然にしては、全部当たってたよね。」
「先生も驚いてたし。」
一方、男子生徒の方では少し違う意見が飛び交っていた。
「でも結局、自分では倒してないだろ?」
「魔力も最低だったし。」
「まあ、指示が上手いだけじゃ実戦じゃ勝てないんじゃないか?」
そんな言葉に、近くにいたレオンが静かに本を閉じた。
「それは違う。」
教室がしんと静まり返る。
レオンは穏やかな口調のまま続けた。
「昨日、私が迷わず剣を振れたのは、ノアが敵の動きを正確に読んでいたからだ。」
「彼の指示がなければ、あれほど早く終わらせることはできなかった。」
短い言葉だった。
しかし、その一言には重みがあった。
公爵家の嫡男。
誰もが認める首席候補。
そのレオンが、素直に他人を認めたのだ。
「へぇ……。」
「レオン君がそこまで言うなんて。」
教室の空気が少しだけ変わる。
その変化に気付いていないのは、当の本人だけだった。
「……ふむ。」
ノアは本を閉じ、小さく首を傾げる。
「なるほど。」
何かを納得したように呟く。
その様子を見ていたリリアが近寄った。
「何を読んでいたの?」
ノアは本の表紙を見せる。
そこには金色の文字で、
『古代魔法陣基礎理論』
と書かれていた。
リリアは思わず目を丸くする。
「えっ、それって三年生でも難しいって言われる本じゃ……。」
「そうなの?」
ノアはきょとんとした顔でページをめくる。
「でも、基礎って書いてあったから。」
リリアは思わず吹き出した。
「ふふっ。」
「ノアらしいわ。」
「そう?」
「ええ。」
リリアは優しく笑う。
「きっと、この学園で『基礎』の意味を一番勘違いしているのは、ノアだけね。」
ノアは困ったように笑い返す。
そんな二人のやり取りを見て、教室の後ろから誰かが小さく囁いた。
「……仲がいいんだな。」
「昔からの知り合いらしいぞ。」
「そうなんだ。」
噂は少しずつ広がり始める。
しかし、その中心にいる二人は、そんなことなど気にも留めていなかった。
ただ穏やかに、同じ時間を過ごしていた。




