実践の価値-06
放課後。
職員棟にある会議室では、今日の実戦授業について教師たちが意見を交わしていた。
机の上には、生徒たちの評価表が並べられている。
「まずは第一班だ。」
クラウスが口を開く。
「レオン・ヴァルハルト。」
「剣術、魔法ともに申し分ない。」
「リリア・ローゼンベルク。」
「状況判断も魔法精度も優秀。」
数人の教師が頷く。
「そして……ノア・アークライト。」
室内が少し静かになった。
「魔力は依然として最低評価。」
「魔法威力も基準未満。」
一人の教師が評価表を見ながら言う。
「総合順位を上げるのは難しいでしょう。」
別の教師も同意する。
「実戦では指示が的確でしたが、あれは偶然の可能性もあります。」
その時だった。
「偶然ではない。」
静かな声が響く。
部屋の後方に立っていたエルドだった。
「エルド先生。」
クラウスが姿勢を正す。
エルドはゆっくりと評価表を手に取る。
「この少年は、戦場を見ている。」
「敵だけではない。」
「味方の位置。」
「地形。」
「魔力の流れ。」
「すべてを同時に見ている。」
教師たちは顔を見合わせる。
「ですが、それだけで……。」
「違う。」
エルドは首を横に振る。
「それだけではない。」
評価表を机へ戻す。
「魔法陣を見ただろう。」
「あれは教本を丸暗記した者の構築ではない。」
「理解して組んでいる。」
魔法担当の教師が腕を組む。
「私も同じ印象でした。」
「ですが魔力が……。」
「そこだ。」
エルドは微笑んだ。
「皆、魔力しか見ていない。」
「だから気付かない。」
クラウスは今日の戦闘を思い返す。
確かに。
ノアは誰よりも戦況を把握していた。
魔力が少ないという一点だけで、その価値を測るのは早計なのかもしれない。
「……もう少し様子を見るべきですね。」
クラウスがそう言うと、エルドは満足そうに頷いた。
「それでいい。」
「教師は才能を決めつける仕事ではない。」
「才能を見つける仕事だ。」
その言葉に、部屋の空気が少しだけ変わった。
◇ ◇ ◇
その夜。
剣術訓練場。
エルドは一人、木剣を手に静かに素振りをしていた。
月明かりの下、一振り、また一振り。
やがて動きを止め、夜空を見上げる。
「……ガレス。」
懐かしい名を口にした。
「覚えているか。」
『剣は力じゃない。見ることから始まる。』
若き日のガレスは、笑いながらそう言っていた。
当時のエルドは鼻で笑ったものだ。
『見るだけで勝てるなら苦労はしない。』
そう返すと、ガレスは木剣を肩に担いで笑った。
『だから見るんですよ、先輩。』
『相手を見て、自分を見て、仲間を見て……。』
『全部見えた時、初めて剣を振るんです。』
その言葉の意味を、本当に理解したのは何年も後だった。
そして今。
「お前の息子は……。」
エルドは小さく笑う。
「ちゃんと、お前の教えを受け継いでいるぞ。」
静かな夜風が吹き抜ける。
遠く、学生寮の明かりが揺れていた。
その中で眠る少年は、まだ知らない。
自分が積み重ねてきた十年が、少しずつ周囲の価値観を変え始めていることを。
そして、その努力がやがて王国の未来さえ動かすことになることを――。




