↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神枷を宿す少年は、大切な人を守るため剣を振る  作者: なごやかたろう
実践の価値

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/66

実践の価値-06

 放課後。

 職員棟にある会議室では、今日の実戦授業について教師たちが意見を交わしていた。

 机の上には、生徒たちの評価表が並べられている。


「まずは第一班だ。」


 クラウスが口を開く。


「レオン・ヴァルハルト。」

「剣術、魔法ともに申し分ない。」

「リリア・ローゼンベルク。」

「状況判断も魔法精度も優秀。」


 数人の教師が頷く。


「そして……ノア・アークライト。」


 室内が少し静かになった。


「魔力は依然として最低評価。」

「魔法威力も基準未満。」


 一人の教師が評価表を見ながら言う。


「総合順位を上げるのは難しいでしょう。」


 別の教師も同意する。


「実戦では指示が的確でしたが、あれは偶然の可能性もあります。」


 その時だった。


「偶然ではない。」


 静かな声が響く。

 部屋の後方に立っていたエルドだった。


「エルド先生。」


 クラウスが姿勢を正す。

 エルドはゆっくりと評価表を手に取る。


「この少年は、戦場を見ている。」

「敵だけではない。」

「味方の位置。」

「地形。」

「魔力の流れ。」

「すべてを同時に見ている。」


 教師たちは顔を見合わせる。


「ですが、それだけで……。」

「違う。」


 エルドは首を横に振る。


「それだけではない。」


 評価表を机へ戻す。


「魔法陣を見ただろう。」

「あれは教本を丸暗記した者の構築ではない。」

「理解して組んでいる。」


 魔法担当の教師が腕を組む。


「私も同じ印象でした。」

「ですが魔力が……。」

「そこだ。」


 エルドは微笑んだ。


「皆、魔力しか見ていない。」

「だから気付かない。」


 クラウスは今日の戦闘を思い返す。

 確かに。

 ノアは誰よりも戦況を把握していた。

 魔力が少ないという一点だけで、その価値を測るのは早計なのかもしれない。


「……もう少し様子を見るべきですね。」


 クラウスがそう言うと、エルドは満足そうに頷いた。


「それでいい。」

「教師は才能を決めつける仕事ではない。」

「才能を見つける仕事だ。」


 その言葉に、部屋の空気が少しだけ変わった。


◇ ◇ ◇


 その夜。

 剣術訓練場。

 エルドは一人、木剣を手に静かに素振りをしていた。

 月明かりの下、一振り、また一振り。

 やがて動きを止め、夜空を見上げる。


「……ガレス。」


 懐かしい名を口にした。


「覚えているか。」

『剣は力じゃない。見ることから始まる。』


 若き日のガレスは、笑いながらそう言っていた。

 当時のエルドは鼻で笑ったものだ。


『見るだけで勝てるなら苦労はしない。』


 そう返すと、ガレスは木剣を肩に担いで笑った。


『だから見るんですよ、先輩。』

『相手を見て、自分を見て、仲間を見て……。』

『全部見えた時、初めて剣を振るんです。』


 その言葉の意味を、本当に理解したのは何年も後だった。

 そして今。


「お前の息子は……。」


 エルドは小さく笑う。


「ちゃんと、お前の教えを受け継いでいるぞ。」


 静かな夜風が吹き抜ける。

 遠く、学生寮の明かりが揺れていた。

 その中で眠る少年は、まだ知らない。

 自分が積み重ねてきた十年が、少しずつ周囲の価値観を変え始めていることを。

 そして、その努力がやがて王国の未来さえ動かすことになることを――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。