実践の価値-04
三体の訓練用ゴーレムが停止すると、演習場に静かな拍手が響いた。
「よくやった。」
クラウスが三人の前へ歩み寄る。
「初めての連携としては上出来だ。」
その言葉に、リリアはほっと息をつく。
レオンは木剣を納めながら、小さく頷いた。
ノアはというと、停止したゴーレムの足元へしゃがみ込み、じっと観察していた。
「やっぱり……。」
小さく呟く。
右脚の関節部分を指でなぞる。
「ここ、少しだけ軸がずれてる。」
誰に聞かせるでもなく、独り言のようだった。
その声を聞いたクラウスが眉をひそめる。
「どういう意味だ?」
ノアは立ち上がり、少し慌てたように答えた。
「あ、えっと……。」
「このゴーレム、右脚の関節が少し摩耗しています。」
「だから重心が右へ寄っていました。」
クラウスは黙ってゴーレムを見る。
見た目では分からない。
「それに。」
ノアは胸部の魔石へ視線を向ける。
「魔力の循環も少し乱れていたので、右脚を壊せば姿勢が崩れるかなって。」
クラウスは無言のまま屈み込む。
工具を取り出し、右脚の装甲を外した。
中から現れた金属製の回転軸。
それを見た瞬間、クラウスの目が見開かれた。
「……本当に摩耗している。」
わずか数ミリ。
普通なら気付かないほどの傷。
しかし確かに、軸は削れていた。
「えっ!?」
「本当だ!」
近くで見ていた他の生徒たちも驚きの声を上げる。
ノアは首を傾げる。
「修理前だったんですね。」
「だから少し動きに癖があったのか。」
その言葉にクラウスは思わず聞き返す。
「……見ただけで分かったのか?」
「はい。」
ノアは当たり前のように頷く。
「父がよく言ってました。」
『武器も鎧も、生き物も壊れ方には癖がある。』
『そこを見ろ。』
「だから、そういうものだと思ってました。」
クラウスは思わず額に手を当てた。
――ガレス・アークライト。
エルドから聞いた名前が頭をよぎる。
これが、あの男の教えなのか。
一方で、生徒たちの反応は様々だった。
「すごい観察力だな……。」
「いや、偶然じゃないのか?」
「でも、二回も当ててるぞ?」
ざわめきが広がる。
その中でレオンだけは静かだった。
彼はノアを見つめながら考えていた。
戦闘中。
ノアは一度も迷わなかった。
敵の動き。
地形。
自分とリリアの位置。
すべてを同時に見ていた。
そして最適な指示を出していた。
――あれは偶然ではない。
レオンは確信する。
もし自分が「剣の天才」なら。
ノアは──。
「戦場を読む天才」だ。
「ノア。」
レオンが声をかける。
「え?」
「さっきの指示。」
「どうして、あのタイミングだった?」
ノアは少し考えた後、不思議そうな顔で答えた。
「右のゴーレムが半歩遅れてたから。」
「あと二秒待つと、三体が一直線に並ぶと思って。」
「そうすれば、お互いの攻撃がぶつかるかなって。」
その場にいた者たちは、再び言葉を失った。
二秒先の動きを予測していた。
そんなことが、本当にできるのか。
ノアだけは、周囲が驚く理由を理解できずにいた。
「……違った?」
その一言に、リリアは思わず笑みをこぼす。
「ううん。」
「きっと、ノアにしか見えていない景色があるのね。」
その言葉に、ノアは照れくさそうに笑った。
演習場の端で、その様子を見守るエルドは腕を組む。
「ふむ。」
目を細め、小さく呟く。
「剣だけじゃないか……。」
「ガレス、お前はとんでもないものを育てたな。」
誰にも聞こえないその声は、穏やかな風に乗って消えていった。




