実践の価値-03
「――始め!」
クラウスの合図と同時に、三体の訓練用ゴーレムが起動した。
青白い魔石が輝き、ゆっくりと三人へ向かって動き出す。
「行く!」
レオンが真っ先に駆け出した。
魔力による身体強化。
一歩ごとに地面を蹴る音が鋭く響く。
あっという間に先頭のゴーレムとの間合いへ入る。
木剣を振り下ろす。
――ガンッ!
重い衝撃音。
ゴーレムは一歩後退しただけで倒れない。
「硬い……!」
レオンはすぐに距離を取る。
その間に二体目が回り込み、挟み込もうとしてきた。
「リリア!」
「任せて!」
リリアの詠唱が始まる。
「――風よ。」
足元に淡い魔法陣が広がる。
風の刃が一直線に走り、一体の腕を弾き飛ばした。
しかし。
三体目は止まらない。
「速い!」
リリアが表情を引き締める。
その時だった。
「レオン!」
ノアの声が飛ぶ。
「二歩右!」
考えるより先に、レオンの体が動いた。
二歩だけ右へ踏み込む。
次の瞬間。
ゴーレム同士の攻撃がぶつかり合う。
――ガァン!
二体が互いに体勢を崩した。
「今!」
ノアが叫ぶ。
「左から!」
レオンは迷わない。
木剣を横薙ぎに振る。
硬い装甲ではなく、ノアが先ほど見抜いていた左肩の継ぎ目へ。
――バキッ!
腕が外れた。
「そんな場所が!」
レオンは思わず驚く。
普通なら狙わない位置だった。
そこへ。
「リリア!」
「分かってる!」
リリアはすでに次の魔法を完成させていた。
「――ウィンドランス!」
鋭い風の槍が放たれる。
腕を失い体勢を崩したゴーレムの胸を正確に撃ち抜いた。
魔石が砕ける。
一体、停止。
残る二体。
その瞬間。
ノアの視線が中央のゴーレムへ向く。
――右足。
やっぱりだ。
ほんのわずかに沈み込みが大きい。
魔力の流れも偏っている。
「レオン!」
「右足を狙って!」
「右足?」
普通なら胸の魔石を狙う。
しかしレオンは迷わなかった。
この短い戦闘だけで、ノアの観察眼を信じるに足ると判断していた。
木剣が右膝へ叩き込まれる。
――ゴキンッ。
鈍い音。
ゴーレムの右脚が折れ、その巨体が大きく傾いた。
「やっぱり!」
ノアが思わず声を漏らす。
「リリア!」
「今なら胸が見える!」
「任せて!」
リリアの炎弾が一直線に飛ぶ。
露出した魔石へ直撃。
――パリン。
二体目も停止した。
残るは最後の一体。
しかし、レオンはもう笑っていた。
「なるほど。」
木剣を構え直す。
「そういう戦い方か。」
ノアは首を傾げる。
「え?」
「いや。」
レオンは前を向いたまま答える。
「君の言葉を信じて剣を振ればいい。」
その一言に、ノアは少し照れたように笑う。
「ありがとう。」
三人の呼吸は、いつの間にか一つになっていた。
最後のゴーレムが突進する。
だが、その動きはもうノアには読めていた。
「左へ半歩。」
レオンが動く。
「今!」
リリアの魔法が飛ぶ。
そして。
レオンの剣が魔石を正確に捉えた。
――パキィン!
三体目が静かに動きを止める。
演習場は、一瞬の静寂に包まれた。
誰よりも早く口を開いたのは、担任のクラウスだった。
「……見事だ。」
その視線はレオンでもリリアでもなく。
静かに木剣を下ろすノアへ向けられていた。
――偶然ではない。
あの少年は、戦場全体を見ていた。
クラウスはそう確信し始めていた。




