実践の価値-02
第一演習場。
王立ルミナス学園の実戦訓練施設は、一つの小さな森ほどの広さがあった。
岩場、林、草原。
様々な地形が再現され、実戦さながらの訓練ができるよう造られている。
その中央には、三体の人型ゴーレムが静止していた。
青白い魔石が胸に埋め込まれ、鈍い光を放っている。
「本日の課題は、訓練用ゴーレムの無力化だ。」
担任のクラウスが説明する。
「これは本物の魔物ではない。」
「だが、魔物を想定した動きをする。」
生徒たちは真剣な表情で耳を傾ける。
「力任せでは倒せない。」
「班で協力し、最も効率的な方法を考えろ。」
そう言って、クラウスは三人へ視線を向けた。
「第一班。」
「前へ。」
ノア、リリア、レオンが並ぶ。
「作戦会議は五分。」
「開始。」
三人は演習場の端へ移動した。
最初に口を開いたのはレオンだった。
「基本通りいこう。」
「俺が前衛で敵を引きつける。」
「リリアは後方から魔法。」
「ノアは状況を見ながら援護してくれ。」
無駄のない判断だった。
リリアも頷く。
「賛成よ。」
二人は自然とノアを見る。
「ノアはどう思う?」
「え?」
突然話を振られ、少し驚く。
「僕?」
「もちろん。」
リリアが微笑む。
「三人で考えるんだから。」
ノアは少しだけ考え、ゴーレムへ視線を向けた。
その瞬間だった。
ノアの表情がわずかに変わる。
「……あれ?」
「どうした?」
レオンが尋ねる。
ノアはゴーレムをじっと見つめたまま答えた。
「少し変だなって。」
「変?」
「うん。」
ノアは目を細める。
「真ん中のゴーレムだけ、右足に少し重心が寄ってる。」
レオンとリリアは見比べる。
しかし、違いは分からない。
「それに。」
ノアは続ける。
「左腕の動きが少し硬い。」
「たぶん、回転軸が少しだけずれてる。」
「あと。」
少し考えてから付け加えた。
「胸の魔石へ流れている魔力も、右足側へ少し偏ってる気がする。」
沈黙。
リリアは素直に驚いた。
「そんなことまで分かるの?」
「え?」
ノアはきょとんとする。
「見れば分かるよね?」
今度はレオンまで黙った。
見れば分かる。
そんな簡単な話ではない。
彼も幼い頃から剣を学び、多くの訓練を積んできた。
それでも、ノアが口にした違和感は一つも気付かなかった。
「……近付いて見たのか?」
「ううん。」
ノアは首を振る。
「ここから見ただけ。」
「…………。」
レオンは無言になる。
距離は二十メートル以上ある。
普通なら、足の重心どころか、細かな関節の動きなど見えるはずがない。
ノアは三人の様子に首を傾げた。
「父さんは、戦う前に相手をよく見ろって。」
「見えてないものに剣を振るなって教わったから。」
その一言で、レオンはすべてを理解した。
――違う。
魔力がないから弱いのではない。
この少年は。
魔力がないからこそ。
「見る」という力だけを、常識外れの域まで鍛え上げたのか。
その時だった。
クラウスの声が演習場に響く。
「作戦会議、終了!」
「第一班!」
「実戦を開始する!」
三人は顔を見合わせ、小さく頷いた。
それぞれの役割を胸に。
最初の実戦訓練が、今始まろうとしていた。




