実戦の価値-01
翌朝。
王立ルミナス学園一年A組の教室には、新入生たちの緊張した空気が漂っていた。
能力測定の結果が掲示された翌日。
教室のあちこちでは、その話題でもちきりだった。
「やっぱりレオンが首席か。」
「リリア様も僅差らしいぞ。」
「魔力量だけなら歴代でも上位なんだって。」
そんな声が聞こえる中、ノアは静かに自分の席へ座っていた。
廊下では自分の評価について話す声も耳に入ったが、もう気にしてはいない。
気にしても、魔力は増えない。
それなら、今日の授業に集中するだけだ。
「おはよう、ノア。」
柔らかな声がして振り向くと、リリアが笑顔で立っていた。
「おはよう。」
「昨日はちゃんと眠れた?」
「うん。」
ノアは素直に頷く。
「親元を離れてのの学園生活だから、少し緊張したけど。」
「ふふっ。」
リリアは嬉しそうに笑う。
「私は楽しみで、あまり眠れなかったわ。」
「そうなの?」
「ええ。」
それ以上は言わない。
本当は、ノアとまた同じ時間を過ごせることが嬉しくて眠れなかったのだが、それを口にする勇気はまだなかった。
その時、教室の扉が開く。
一人の男性教師が入ってきた。
三十代半ばほどの年齢。
落ち着いた雰囲気を纏い、教卓の前へ立つ。
「おはよう諸君。」
教室が静まり返る。
「私は一年A組の担任を務める、クラウス・フェルナーだ。」
穏やかな声ながら、騎士らしい張りのある声だった。
「昨日の能力測定、お疲れだった。」
「結果に満足した者もいれば、不満を抱いた者もいるだろう。」
教室をゆっくり見渡す。
「だが、一つだけ覚えておいてほしい。」
クラウスは黒板へ大きく文字を書く。
――『戦いは一人ではできない』
「魔力量。」
「剣術。」
「身体能力。」
「どれも重要だ。」
「しかし、それだけで勝敗は決まらない。」
ノアは自然と顔を上げた。
「今日から実戦授業を始める。」
教室がざわつく。
「諸君には三人一組の班を組んでもらう。」
名前が書かれた紙を広げる。
「班分けは、能力測定の順位では決めていない。」
「互いに足りないものを補える組み合わせだ。」
そして、一組目が読み上げられる。
「第一班。」
クラウスは紙から目を上げた。
「ノア・アークライト。」
一瞬の静寂。
「リリア・ローゼンベルク。」
教室がざわめく。
「そして――」
クラウスは最後の名前を告げた。
「レオン・ヴァルハルト。」
どよめきが教室中に広がった。
「えっ!?」
「首席候補二人と最下位が同じ班!?」
「どういう組み合わせだ?」
誰もが困惑していた。
当の三人も、互いに顔を見合わせる。
レオンは静かに頷き、
「よろしく。」
と短く言った。
ノアも頭を下げる。
「よろしくお願いします。」
リリアは二人を見比べ、小さく微笑んだ。
「きっと、いい班になるわ。」
その様子を見たクラウスは、心の中で苦笑する。
――まったく。
エルド先生も無茶を言う。
昨日の放課後。
剣術教官エルドは、クラウスへこう言った。
『あの三人を同じ班にしてやれ。』
『理由は聞くな。見れば分かる。』
教師としては、能力差の大きい班編成には不安もあった。
だが、長年学園を支えてきたエルドの言葉には、不思議な説得力があった。
クラウスは三人へ視線を向ける。
首席候補の二人。
そして、魔力最低評価の少年。
果たして、この班はどんな戦いを見せるのか。
教師である彼自身も、その答えをまだ知らなかった。




