最下位の少年-05
能力測定がすべて終わると、新入生たちは訓練場を後にした。
結果は夕方までに掲示板へ張り出されるという。
その知らせを聞くと、多くの生徒が結果を予想しながら歩き始める。
「首席はレオン様だろうな。」
「いや、リリア様も負けてない。」
「今年はレベルが高いな。」
そんな会話が飛び交う中、不意に別の声が混じった。
「……そういえば、あのアークライトって。」
「ああ、魔力量が幼児並みっていう。」
「よく入学できたよな。」
くすり、と小さな笑いが漏れる。
悪意はまだ小さい。
けれど、その笑いは確かにノアへ向けられていた。
ノアは立ち止まることなく歩き続ける。
慣れている。
魔力が少ないと言われることも。
期待されないことも。
だから気にしない。
そう思っていた。
しかし、その隣を歩くリリアは違った。
足を止める。
ゆっくりと振り返る。
その動きだけで、周囲の空気が静まった。
「今の言葉。」
穏やかな声だった。
けれど、その静けさに、何人かの生徒が息を呑む。
「誰に向けたものですか?」
問いかけられた男子生徒は、戸惑いながら答える。
「い、いや……その……。」
「事実を言っただけです。」
「魔力量が少ないって。」
リリアは一歩だけ近づいた。
「それで?」
「え……?」
「魔力量が少ないことと、その人を笑っていいことは、同じなのですか?」
男子生徒は言葉を失う。
周囲も静まり返る。
リリアは声を荒げない。
責め立てもしない。
ただ真っ直ぐに相手を見つめる。
「私は今日、ノアの剣を見ました。」
「誰よりも無駄がなく、誰よりも真剣でした。」
「努力を知らないまま結果だけを見て人を笑うことは、ローゼンベルク家の教えにはありません。」
その言葉には、令嬢としての品格と誇りがあった。
男子生徒は顔を赤くし、小さく頭を下げる。
「……すみませんでした。」
そう言い残し、仲間とともに立ち去っていく。
静寂が戻る。
ノアは困ったように頭をかいた。
「リリア。」
「そこまで言わなくても良かったのに。」
リリアはくるりと振り返る。
「どうして?」
「だって、本当のことだから。」
「魔力が少ないのは事実だし。」
ノアは笑って答える。
「僕は気にしてないよ。」
その一言に。
リリアは胸が締めつけられた。
――また。
また、この人は自分のことを後回しにする。
十年前もそうだった。
自分が傷ついているのに、泣いているリリアを先に慰めた。
今も同じだ。
「ノア。」
リリアは一歩近づく。
「あなたは気にしなくても、私は気にする。」
その瞳は揺るがない。
「あなたがどれだけ努力してきたか、私は知らない。」
「でも。」
少しだけ微笑む。
「あなたが誰かを笑うような人じゃないことは知ってる。」
「だから、そんなあなたが笑われるのは嫌。」
ノアは言葉を失った。
そんなふうに言ってもらえたことが、これまでほとんどなかったからだ。
「……ありがとう。」
ようやく、それだけを口にする。
リリアは嬉しそうに笑った。
「うん。」
二人は再び歩き始める。
その少し後ろから、一連のやり取りを見ていたレオンは静かに目を閉じた。
「なるほど……。」
リリアがここまで感情を見せる相手。
それがノア・アークライト。
レオンは改めて胸の内でその名を刻む。
ライバルとしてではない。
一人の剣士として。
いつか必ず、その剣の真価を見極めたいと。




