最下位の少年-04
剣術測定が終わった後。
新入生たちは休憩時間へ入っていた。
訓練場の隅。
ノアは木剣の手入れをしていた。
使った後の剣を整える。
それもまた、父から教えられた習慣だった。
「剣は道具じゃない。」
昔、ガレスは言った。
「共に戦う相棒だと思え。」
だからノアは、どれだけ疲れていても必ず剣を手入れする。
「君は不思議な奴だな。」
突然、声がした。
顔を上げる。
レオン・ヴァルハルト。
「レオンさん。」
「さんはいらない。」
レオンは首を振る。
「同じ学年だ。」
「なら、レオンでいい。」
ノアは少し戸惑った。
公爵家の嫡男。
普通なら、自分のような下級貴族へここまで気軽に話しかけることはない。
「分かりました。レオン。」
その返事に、レオンは少しだけ笑う。
「素直だな。」
レオンはノアの持つ剣を見る。
「君は、なぜその剣を使う?」
「え?」
「もっと良い武器を選べただろう。」
ノアの剣は特別高価なものではない。
父から譲られた古い剣帯。
普通の貴族子息なら、もっと装飾された武器を使う。
ノアは少し考えて答える。
「父からもらったものだからです。」
迷いのない答え。
レオンは黙る。
「……そうか。」
短い返事。
しかし。
その目は、先ほどまでとは違った。
「君は、自分の評価を気にしないのか?」
ノアは少し首を傾げる。
「評価?」
「魔力量のことだ。」
レオンは言葉を選ぶ。
「今日、周囲が何を思ったか分かっているだろう。」
ノアは少し黙る。
もちろん分かっている。
魔力が低い。
それは事実だ。
「はい。」
「悔しくないのか?」
その問いに。
ノアは少し驚いた。
そして。
ゆっくり首を振る。
「悔しいですよ。」
意外な答えだった。
レオンの目が少し動く。
「でも。」
ノアは続ける。
「魔力が少ないことを悔やんでも、増えるわけじゃありません。」
「だったら。」
剣を見る。
「今できることをするだけです。」
レオンは黙った。
その答えは。
簡単なようで。
多くの人間にはできない。
自分の弱さを認める。
しかし、そこで止まらない。
「……君は、本当にそう思っているのか。」
レオンが聞く。
「はい。」
即答。
迷いがない。
レオンは小さく息を吐いた。
「なるほど。」
「だから、その剣なのか。」
「え?」
「何でもない。」
レオンは視線を外す。
そして。
「一つ聞きたい。」
「君は、本気で強くなりたいと思っているか?」
ノアは一瞬、驚いた。
そんなことを聞かれるとは思わなかった。
でも。
答えは決まっていた。
「はい。」
「誰よりも?」
少し考える。
父を思い浮かべる。
幼い頃、自分を守ってくれた背中。
いつか追いつきたいと思った背中。
「……はい。」
レオンはその答えを聞いて。
初めて、少しだけ笑った。
「そうか。」
その笑みは挑戦状にも似ていた。
「なら。」
一歩近づく。
「いつか、君と本気で剣を交えてみたい。」
ノアは目を見開く。
「僕と?」
「ああ。」
レオンは頷く。
「理由はまだ分からない。」
「だが。」
ノアを見る。
「君の剣には、何かがある。」
その言葉に。
ノアは少し照れたように笑った。
「ありがとうございます。」
しかし。
本人はまだ気づいていない。
その「何か」が。
十年間積み上げた、誰にも真似できないものだということに。
遠く。
訓練場の入り口。
リリアは二人の会話を見ていた。
少し嬉しそうに。
そして。
少しだけ複雑そうに。
「……ノア。」
小さく名前を呼ぶ。
こうして。
新しい絆が生まれた。




