最下位の少年-03
魔力測定が終わると、新入生たちは隣の剣術訓練場へ移動した。
広大な円形の闘技場。
壁際には観覧席。
中央には、模擬戦用の区画が用意されている。
「次は身体能力及び剣術適性の確認を行う。」
担当教官が告げる。
「魔力による身体強化も含めて、実戦での能力を見る。」
その言葉に、新入生たちは気合を入れる。
魔法だけが戦闘ではない。
この国では、剣士もまた重要な役割を持つ。
そして。
魔力を使った身体強化。
それこそが、現在の騎士たちの常識だった。
「では、開始する。」
最初の生徒が呼ばれる。
剣と剣がぶつかる。
身体強化による速度。
強化された腕力。
観客席から歓声が上がる。
「やっぱり凄いな。」
「さすがルミナス学園。」
次々と測定が進んでいく。
そして。
「レオン・ヴァルハルト。」
名前が呼ばれる。
空気が変わった。
レオンは木剣を受け取る。
対戦相手も緊張している。
「お願いします。」
開始の合図。
次の瞬間。
レオンの姿が消えたように見えた。
踏み込み。
一閃。
相手の木剣が弾き飛ばされる。
わずか一秒。
圧倒的だった。
歓声が起こる。
「すごい……。」
「これが公爵家……。」
レオンは静かに剣を下ろす。
しかし。
その表情に満足感はない。
まだ本気ではない。
そんな顔だった。
「次。」
名前が呼ばれていく。
そして。
「ノア・アークライト。」
一瞬。
周囲がざわめいた。
「あの魔力量の?」
「剣もできるのか?」
ノアは中央へ向かう。
対戦相手は、同じ新入生の少年だった。
貴族家の子息。
彼は少し戸惑ったように笑う。
「悪いけど……手加減はしない。」
「はい。」
ノアは木剣を構える。
相手も構える。
しかし。
その構えを見た瞬間。
相手の表情が変わった。
――何だ?
派手ではない。
力を込めている様子もない。
なのに。
隙がない。
開始の合図。
「始め!」
相手が踏み込む。
魔力による身体強化。
速い。
普通なら見えない速度。
しかし。
ノアには見えていた。
肩の動き。
重心移動。
呼吸。
十年間。
何千。
何万回。
剣と向き合ってきた。
だから分かる。
ノアは半歩だけ横へ移動した。
攻撃が空を切る。
そして。
一歩。
踏み込む。
木剣が相手の手首へ触れる。
次の瞬間。
相手の剣が落ちた。
静寂。
一瞬。
誰も声を出せなかった。
「……勝者、ノア・アークライト。」
教官が告げる。
ざわめきが広がる。
「今の……何?」
「見えなかった。」
「魔力強化してないのに?」
ノアは首を傾げる。
「ありがとうございました。」
相手へ礼をする。
対戦相手は悔しそうにしながらも、素直に頭を下げた。
「……強いな。」
「いや。」
ノアは首を振る。
「まだまだです。」
その言葉に、周囲はさらに困惑した。
普通なら喜ぶ場面。
しかし。
本人は本当にそう思っている。
まだ父には届かない。
まだ自分は未熟だ。
ただ、それだけ。
教官は記録を書く。
「剣術技術……非常に高い。」
一瞬、筆が止まる。
「しかし。」
「身体強化が使用できないため、総合評価は平均以下とする。」
ノアの評価欄。
魔力。
最低。
剣術技術。
最高水準。
だが総合。
低評価。
その矛盾した結果を見て。
レオンは静かにノアを見る。
「……。」
初めてだった。
魔力が低い。
なのに。
剣だけなら、自分と同じ領域を見ている。
いや。
もしかすると。
「……面白い。」
レオンは小さく呟いた。
ノア・アークライト。
彼の中で、その名前の意味が変わり始めていた。




