最下位の少年-02
王立ルミナス学園、第一訓練棟。
新入生たちは広大な部屋に集められていた。
中央には巨大な魔導具が設置されている。
透明な水晶柱。
内部には淡い光が流れていた。
入学直後の能力測定。
この学園では、生徒一人ひとりの才能を把握するため、最初に必ず行われる。
「魔力量、魔力制御、属性適性を確認します。」
担当教師が説明する。
「結果は今後の授業編成にも関係します。」
その言葉に、新入生たちの間で緊張が走る。
「ついに来たな。」
「自分の才能が分かる。」
「俺は火属性が得意って言われてる。」
期待に満ちた声。
不安そうな声。
様々な感情が入り混じる。
ノアは静かに順番を待っていた。
魔力測定。
当然、不安はある。
自分の魔力が少ないことは、十年前から知っている。
でも。
逃げる理由にはならない。
名前が呼ばれる。
「リリア・ローゼンベルク。」
周囲の空気が変わった。
「ローゼンベルク家のお嬢様だ。」
「新入生代表……。」
リリアは落ち着いた様子で水晶へ手を置く。
瞬間。
眩い光が広がった。
水晶内部を満たす魔力。
測定器が高い音を鳴らす。
「魔力量……上級評価。」
「制御能力も非常に高い。」
教師が感嘆する。
周囲から歓声が上がる。
「さすがだ。」
「やっぱり凄い。」
リリアは軽く礼をして戻る。
その視線は、すぐにノアを探していた。
そして。
「レオン・ヴァルハルト。」
次に呼ばれる。
公爵家嫡男。
注目が集まる。
レオンが水晶へ触れる。
次の瞬間。
リリアとは違う。
圧倒的な光。
魔力の密度。
力強さ。
教師の表情が変わる。
「……素晴らしい。」
「魔力量、制御能力ともに最高水準。」
ざわめきが広がる。
レオンは淡々と戻る。
当然と言えば当然。
彼は幼い頃から、その期待を背負ってきた。
そして。
「ノア・アークライト。」
名前を呼ばれる。
一瞬。
何人かの視線が集まった。
リリアの隣にいた少年。
それだけで興味を持つ者もいた。
ノアは水晶の前へ立つ。
手を置く。
意識を集中する。
魔力を流す。
――。
何も起こらない。
数秒。
沈黙。
教師が眉をひそめる。
「……もう一度。」
ノアは言われた通り、力を込める。
しかし。
結果は変わらない。
水晶の中心に、小さな光が灯るだけ。
それは。
あまりにも小さかった。
教師が測定結果を見る。
「……魔力量。」
一瞬、言葉に迷う。
「最低評価。」
周囲が静まる。
「え?」
誰かが声を漏らす。
教師は困惑しながら続ける。
「魔力保有量は……一般的な成人の基準を大きく下回っています。」
「これは……。」
言葉を選ぶ。
「幼児期の子供と同程度です。」
ざわ。
空気が揺れる。
「嘘だろ。」
「貴族なのに?」
「魔法が使えないってことか?」
小さな声が広がる。
ノアは黙って結果を見る。
予想していた。
分かっていた。
だから。
「ありがとうございました。」
頭を下げる。
その姿に、リリアは拳を握った。
悔しい。
なぜ。
なぜこの人の努力が、この数字だけで判断されるのか。
レオンもまた、ノアを見る。
しかし。
彼が見ていたのは水晶ではなかった。
ノア本人。
魔力量は確かに低い。
間違いなく。
だが。
普通なら、その結果を見た瞬間に落ち込む。
自信を失う。
そんな反応になるはずだった。
なのに。
ノアの目は、まだ前を向いている。
「……。」
レオンは静かに考える。
――なぜだ。
なぜ、この魔力量で。
あれほど迷いのない目をしていられる。
その疑問は、まだ答えを持たなかった。




