再会の約束-06
王立ルミナス学園の寮。
新入生用に用意された部屋は、決して豪華ではない。
しかし、必要なものは全て揃っていた。
机。
本棚。
寝台。
そして、大きな窓。
ノアは荷物を整理し終えると、椅子へ腰を下ろした。
静かな夜だった。
昼間の喧騒が嘘のように消えている。
「……長い一日だったな。」
窓の外を見る。
王都の夜景。
無数の魔法灯が輝いている。
村では見ることのできなかった光景。
それを眺めながら、今日一日の出来事を思い返す。
王立ルミナス学園。
リリアとの再会。
そして。
レオン・ヴァルハルト。
公爵家の嫡男。
自分とは何もかも違う少年。
ノアは苦笑した。
「すごい人ばかりだな。」
もちろん、分かっていた。
この学園に来る者たちは、皆それぞれの分野で選ばれている。
魔法に優れた者。
剣術に優れた者。
知識に優れた者。
自分は、その中で何ができるのか。
ノアは手を握る。
魔力は弱い。
それは変わらない。
明日になっても。
明後日になっても。
きっと。
胸の奥へ意識を向ける。
いつものように、小さな灯火。
それ以上にはならない。
「……。」
少しだけ、寂しさが込み上げる。
もし自分にも、もっと大きな魔力があれば。
もっと簡単に認められたのだろうか。
そんな考えが、一瞬だけ浮かぶ。
しかし。
ノアは首を振った。
「違う。」
小さく呟く。
父が教えてくれた。
魔力だけが強さではない。
今日まで積み重ねてきた剣がある。
努力がある。
それだけは、誰にも奪えない。
腰に触れる。
父から受け継いだ剣帯。
「僕は僕のできることをする。」
静かな決意。
その時だった。
胸の奥。
普段は何も感じない場所。
そこに。
ほんの一瞬だけ。
熱が走った。
「……?」
ノアは胸元へ手を当てる。
しかし。
すぐに消える。
「気のせい……?」
首を傾げる。
十年前。
リリアを守ったあの日。
自分の力では説明できない何かが起きた。
その記憶。
けれど、それはもう遠い昔のこと。
ノアは深く考えず、窓の外を見る。
月が静かに輝いていた。
◇ ◇ ◇
同じ頃。
女子寮。
リリア・ローゼンベルクの部屋。
机の上には、一枚の古い押し花が置かれていた。
十年前から大切にしているもの。
リリアはそれを見つめる。
「……会えた。」
今日何度思ったか分からない。
夢ではなかった。
本当に。
ノアはいた。
少し背が伸びていた。
少し大人になっていた。
でも。
優しいところは何も変わっていなかった。
リリアは小さく笑う。
「ノアは、きっと気づいていないんだろうな。」
あの日。
自分を助けた少年が。
どれほど特別な存在になったのか。
どれほど長い間、心の中にいたのか。
きっと知らない。
だから。
「今度は私の番。」
リリアは窓の外を見る。
同じ月。
同じ夜空。
遠く離れていた十年を越えて。
ようやく、また隣に立てた。
「今度は、私がノアの力になる。」
そう誓う。
◇ ◇ ◇
そして。
王立ルミナス学園の地下深く。
誰も知らない場所。
古びた石碑に刻まれた文字が、月の光を受けて淡く輝いていた。
『神枷』
その文字が、一瞬だけ光る。
まるで。
十年前に選ばれた少年の存在を、確認するように。
――物語は、動き始めた。




