再会の約束-05
入学式後。
新入生たちは、それぞれ指定された教室へ向かっていた。
ノアはリリアと並んで歩いている。
「まさか同じ学年だとは思わなかった。」
ノアが言うと、リリアは嬉しそうに笑った。
「私も。」
「でも……」
少しだけ視線を落とす。
「本当は、会える気がしていたの。」
「え?」
「なんとなく。」
リリアは胸元へ手を添える。
「ノアは、約束を破らない人だから。」
その言葉に、ノアは少し困ったように笑った。
「そんな大げさな約束、したかな。」
「したよ。」
即答。
「私を守るって。」
ノアは目を瞬く。
十年前。
確かに言った。
でも、あの時はただ必死だった。
目の前の女の子を助けたかっただけ。
それがリリアにとって、これほど大きな意味を持っていたとは知らなかった。
「……覚えていたんだ。」
「当たり前だよ。」
リリアは微笑む。
その距離感に。
周囲の新入生たちはざわめいていた。
「え?」
「あの方……ローゼンベルク家の?」
「男と一緒に歩いてる?」
「誰だ、あいつ。」
王立ルミナス学園では、家柄も重要な要素だった。
特にリリアは、中級貴族ローゼンベルク家の令嬢。
さらに今年の新入生代表。
自然と注目を集める存在だ。
そんな少女が、見慣れない少年と親しげに話している。
気にならない方が難しい。
「ノア。」
リリアが周囲の視線に気づく。
「気になる?」
ノアは首を振った。
「大丈夫。」
「昔からこういうのには慣れてるから。」
その答えに、リリアは少しだけ悲しそうな顔をした。
けれど。
ノア本人は気づかない。
自分がどれだけ普通ではない努力をしてきたのか。
周囲からどう見られているのか。
本人だけが分かっていなかった。
その時。
「リリア。」
静かな声が響いた。
二人が振り返る。
そこに立っていたのは、一人の少年。
金色の髪。
整った顔立ち。
そして、誰もが自然と道を開けるような存在感。
「レオン。」
リリアが名前を呼ぶ。
ノアは目を向ける。
先ほど入学式で会った少年。
しかし。
今見ると、改めて分かる。
強い。
ただ立っているだけなのに、隙がない。
剣士としての完成度が高い。
「紹介しておく。」
レオンはノアを見る。
「俺はレオン・ヴァルハルト。」
「ヴァルハルト公爵家の嫡男だ。」
改めて名乗る。
ノアも姿勢を正した。
「ノア・アークライトです。」
「アークライト家……。」
レオンはその名を口にする。
そして。
ほんの一瞬だけ、ノアの腰に視線を向けた。
古い剣帯。
使い込まれた革。
普通の貴族子息なら身につけないようなもの。
「……珍しいものを使っているな。」
ノアは腰を見る。
「ああ、これですか。」
「父からもらったものです。」
その答えに。
レオンの目が少し変わる。
「そうか。」
短い返事。
だが、その声には何かを感じ取ったような響きがあった。
「大切にしているんだな。」
「はい。」
迷いなく答える。
レオンは小さく頷く。
その瞬間。
初めて、彼はノアを正面から評価した。
家柄ではない。
魔力でもない。
ただ、その一言に込められた覚悟を。
「……よろしく。」
レオンは手を差し出した。
ノアは少し驚きながら、その手を握る。
「よろしくお願いします。」
公爵家嫡男。
下級貴族の次男。
本来なら交わることのない二人。
しかし。
この日。
奇妙な縁が結ばれた。
その様子を見ていたリリアは、少しだけ複雑な表情を浮かべる。
レオンは優秀。
家柄もある。
周囲から見れば、誰もが認める完璧な人物。
でも。
リリアが知っている。
本当に守ってくれた人は。
目の前にいる少年だけだった。




