再会の約束-03
大講堂の扉が閉じられる。
ざわめいていた空間が、静かに落ち着いていく。
王立ルミナス学園の入学式。
集められた新入生は数百人。
王国中から選ばれた才能たちが、一つの場所に集まっていた。
ノアは用意された席に座り、壇上へ視線を向ける。
豪華な装飾。
歴代の学園長の肖像。
魔法によって浮かぶ光の文字。
どれも村では見たことのないものばかりだった。
「すごい場所だな……。」
小さく呟く。
すると、隣の席から声が返ってきた。
「初めて見るものばかりか?」
振り向く。
そこにいたのは、先ほど門の前で会った少年だった。
「はい。田舎から来たので。」
正直に答えると、少年は少しだけ目を細めた。
「そうか。」
嫌味はない。
むしろ、どこか興味を持っているようだった。
「俺はレオン・ヴァルハルト。」
少年は静かに名乗る。
「ヴァルハルト公爵家の嫡男だ。」
一瞬。
周囲の空気が変わった。
「ヴァルハルト公爵家……?」
「王国四大公爵家の一つだろ?」
「今年の首席候補って……」
小声が広がる。
ノアは少し驚いた。
公爵家。
それは下級貴族であるアークライト家とは、比べるまでもない家柄だ。
だが。
レオン本人は、周囲の反応を気にする様子がなかった。
「君の名前は?」
「ノア・アークライトです。」
「アークライト……。」
レオンの瞳が、一瞬だけ変わる。
ほんの僅かな変化。
普通なら気づかない程度。
だが、ノアは剣を磨く中で、人の動きや変化を見ることに慣れていた。
「知っているんですか?」
尋ねると、レオンは少し考えてから答える。
「いや。」
「ただ、聞いたことがある名前だっただけだ。」
それ以上は言わなかった。
ノアも深く追及しない。
その時。
壇上へ一人の女性が上がった。
学園長。
白髪の老人だった。
「新入生諸君。」
魔法によって声が大講堂全体へ響く。
「今日より君たちは、王立ルミナス学園の生徒となる。」
「ここは、才能ある者が集まる場所だ。」
「しかし、覚えておいてほしい。」
学園長は新入生たちを見渡す。
「才能とは、生まれ持ったものだけではない。」
「磨き続ける者だけが、本当の意味で力を手にする。」
その言葉に、ノアは自然と背筋を伸ばした。
まるで父の言葉を聞いているようだった。
そして。
「では、新入生代表より挨拶を。」
学園長が横へ視線を向ける。
その瞬間。
大講堂の空気が変わった。
一人の少女が壇上へ歩いていく。
栗色の髪が揺れる。
堂々とした姿。
美しく、気品に満ちた佇まい。
ノアは何気なくその少女を見る。
そして。
息を止めた。
胸の奥が、大きく揺れる。
知らないはずがない。
忘れるはずがない。
あの日。
森の中で泣いていた少女。
自分が命を懸けて守った、小さな女の子。
「……。」
声が出ない。
少女が壇上へ立つ。
「新入生代表、リリア・ローゼンベルクです。」
その名前を聞いた瞬間。
十年前の記憶が鮮明によみがえった。
――リリア。
ノアは無意識に拳を握る。
会いたかった。
でも。
同時に思う。
自分は、覚えてもらえているだろうか。
あの日のことを。
自分のことを。
そんな不安が胸をよぎった。
壇上のリリアは、凛とした声で挨拶を続ける。
その姿は、もう幼い少女ではない。
立派な貴族令嬢だった。
けれど。
ノアには分かった。
笑う時に少しだけ目元が柔らかくなる癖。
緊張した時、指先をわずかに握る癖。
何一つ変わっていない。
――リリアだ。
そう確信した瞬間。
リリアもまた。
大講堂の中にいる一人の少年へ視線を向けていた。
十年探し続けた面影。
忘れたことのない姿。
その少年を見つけた瞬間。
リリアの表情が、ほんの少しだけ揺れた。




