再会の約束-01
馬車の車輪が、石畳の道を軽快に叩いていた。
ガタガタと揺れる荷台。
窓から流れ込む春の風。
ノア・アークライトは、窓の外へ視線を向けたまま、しばらく言葉を失っていた。
「……すごい。」
思わず、声が漏れる。
目の前に広がっているのは、今まで見たことのない景色だった。
高くそびえる城壁。
その上を巡回する騎士たち。
街中を走る魔導車。
建物の壁には魔法灯が埋め込まれ、昼間だというのに淡い光を放っている。
村では見ることのなかった光景ばかりだった。
「これが……王都。」
ノアは小さく呟く。
幼い頃。
森の中でリリアを助けた日。
まさか自分が、こんな場所へ来ることになるなんて思いもしなかった。
馬車が大きな門を通り抜ける。
その瞬間。
空気そのものが変わったように感じた。
人が多い。
建物が大きい。
何より。
ここには、強そうな気配を持つ者が多くいる。
腰に剣を下げた騎士。
珍しい魔法具を身につけた魔術師。
自分より若いのに、堂々と歩く貴族の子息。
ノアは無意識に背筋を伸ばした。
――ここが、王立ルミナス学園へ向かう場所。
自分がこれから過ごす場所。
期待がないと言えば嘘になる。
けれど。
不安もあった。
ノアは自分の手を見る。
十年間、木剣を握り続けた手。
何度も豆が潰れた。
何度も血が滲んだ。
それでも、父の教えだけを信じて振り続けた。
剣なら、誰にも負けないと思っている。
……いや。
正確には。
負けないように努力してきた。
でも。
魔力だけは違う。
胸の奥へ意識を向ける。
いつものように、小さな灯火ほどの力しか感じない。
ノアは苦笑した。
「ここでは、みんなすごいんだろうな。」
魔法が当たり前に使える者。
幼い頃から才能を認められている者。
自分とは違う世界の人間。
そう思ってしまう。
しかし。
腰に触れる。
そこには、ガレスから受け継いだ古い剣帯があった。
擦れた革の感触。
父の言葉が蘇る。
『昨日のお前より、今日のお前が強ければ、それでいい。』
ノアは小さく息を吐いた。
「……大丈夫。」
誰に言うでもなく呟く。
「僕は僕だ。」
魔力が少なくても。
才能がなくても。
今日まで積み重ねてきたものは消えない。
馬車がゆっくりと速度を落とす。
御者の声が響いた。
「王都中央区に到着します。」
ノアは顔を上げる。
その先に。
巨大な建物群が見えた。
白銀の塔。
広大な敷地。
そして中央に掲げられた旗。
王国最高峰の学び舎。
――王立ルミナス学園。
ノアは静かに息を吸った。
胸の奥で、不安と期待が入り混じる。
「……行こう。」
馬車を降りる。
新しい世界へ。
十六歳の少年、ノア・アークライトの物語がここからまた始まる。




