表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神枷を宿す少年は、大切な人を守るため剣を振る  作者: なごやかたろう
旅立ちの日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/32

旅立ちの日-02

 朝の森に、木剣が触れ合う乾いた音が響く。

 カンッ――。

 互いに正眼の構え。

 動かない。

 風が二人の間を吹き抜け、木々が静かにざわめく。


 先に動いたのはノアだった。

 一歩。

 地面を踏みしめる音すら小さい。

 木剣がまっすぐに走る。

 速い。

 だが、その一太刀をガレスは最小限の動きで受け流した。

 木剣同士が擦れ合い、甲高い音を鳴らす。


「力むな。」


 短い一言。

 ノアはすぐに剣を引き、距離を取る。

 そのまま呼吸を整え、再び踏み込む。

 今度は右ではなく左。

 軸足を入れ替え、斜めから切り込む。


 ガレスの口元がわずかに動いた。

 ――読んでいる。

 息子は、こちらの癖を読んでいる。

 以前なら正面から打ち込んできた。

 だが今は違う。

 相手の重心を見て、空いたところを狙ってくる。

 成長した。

 確かに。


 それでも。

「まだ甘い。」

 ガレスは半歩だけ踏み込み、木剣の腹でノアの剣筋を逸らす。

 勢いを失ったノアの木剣が空を切る。


 その一瞬の隙へ、ガレスの木剣が静かに伸びた。

 コツン。

 ノアの額に軽く当たる。


「一本。」


 勝負あり。

 ノアは木剣を下ろし、悔しそうに笑った。


「また負けました。」

「当たり前だ。」


 ガレスはそう言って木剣を肩へ担ぐ。


「私はまだ、お前の師だ。」


 ノアは素直に頷いた。


「はい。」


 悔しさはある。

 だが、不満はない。

 負けた理由が分かるからだ。

 あと一歩。

 あと半歩。

 その積み重ねが勝敗を分けることを、ノアはこの十年で学んでいた。


 ガレスは息子の構えを改めて見つめる。

 剣先はぶれない。

 足運びも滑らかだ。

 何より、無駄な力が抜けている。

 ――ここまで来たか。

 胸の奥で、小さく息をつく。

 自分が十年以上かけて身につけたものを、息子は十年でここまで吸収した。

 もう教えるべき基本は、ほとんど残っていない。


 あとは実戦。

 経験だけが、この先のノアを育てる。

 だが、その考えを口にすることはなかった。

 褒めれば、この子はきっと照れてしまう。

 だからいつも通りに言う。


「もう一本……と言いたいところだが。」


 ガレスは空を見上げる。

 朝日が森を明るく照らし始めていた。


「今日は旅立ちの日だ。」

「母さんが朝食を待っている。」


 ノアは「あっ」と声を漏らす。


「急がないと、また母さんに怒られますね。」

「その通りだ。」


 二人は顔を見合わせ、小さく笑った。

 親子で並んで森を歩き始める。

 その背中を、朝日が優しく照らしていた。

 ガレスは隣を歩く息子を横目で見つめる。

 心の中でだけ、そっと呟く。

 ――ノア。

 ――お前はもう、私が誇れる剣士だ。

 その言葉だけは、胸の奥へ静かにしまい込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ