1998年8月18日(火) (3)
(三)
ゴンザレスは東京タワーへと登っていた。しかしそれはジャージ姿のゴンザレスを見ると観光というイメージではない。
試合までの準備は万端。後の仕事は、体重を減らしながら疲れを取る事である。そして計量を済ませた後に、戦いのリングへと上がり、国松を倒すだけである。
その気持ちが観光名所となっている東京タワーへと足を運ばせたのである。東京タワーを選んだ理由は単純であった。高みだけである。建物の中間層にある展望台へと降り立ち、ゴンザレスはそれほど高くない事を実感した。一緒についてきている案内人の日本人ガイドに戦いが行われる後楽園ホールの位置を確認して、その方向を見た。
自分自身も、国松も世界から見たら未だにこの中間層にすぎない存在だとゴンザレスは思った。そして今回の試合の勝者が、この展望台よりも上の世界へと行く権利を得ることができるのである。そこへ絶対に登り詰める。ゴンザレスは自らに誓った。
前回の試合で、国松というボクサーが簡単に勝てる相手ではないことは理解していた。自らの評価を貶めた相手である。その相手に勝ってこそ、これからの自分のボクサー人生が開かれるとゴンザレスは思った。
この東京タワーへと来たことは、観光などというものではない。改めて自らにプレッシャーを掛けて、絶対に勝つという、高みへと昇るという思いを強くするためであった。
地上よりも近くなった天を見上げて、ゴンザレスは息を大きく吸い込み、目を閉じた。




