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「私はクリスタの成長と幸せを、誰よりも考えていますわ。良き伴侶に出会う為、お見合いはまだまだ続けますわ。」
「クリスタはまだ13歳になったばかりだ。もっと楽しい事も教えてあげなければかわいそうじゃないのかい?」
エレボス伯爵家の門から玄関までの馬車の短い間、クリスタの事で父と母が喧嘩を始めてしまった。
「かわいそう?私の教育が間違っているとおっしゃっりますの?」
「そうじゃない。テレーゼは頑張っているよ。でももっと自由をだね……。」
「ほら!貴方は私を批判しているではありませんか!」
両親の喧嘩を見るのは初めての事だ。
きっと詩織の記憶のないクリスタだったら、私は大丈夫だから喧嘩をしないで、と言いそうな気がするが、詩織の記憶のあるクリスタはただ黙って成り行きを見ている。
母の言い分もわかるし、優秀なクリスタを更に優秀にしたい、良き結婚相手を!と言う気持ちもわからなくはない。
「批判はしていない。少しやり過ぎなだけだ。」
そう。母はやり過ぎなのだ。
このままでは詩織の記憶を持つクリスタでも、心が潰されてしまいそうになる。
父に心の中で頑張れ!とエールを送るが、エキサイトした母を相手にするには少々分が悪く、父は防戦一方だ。
「この話はまた家に帰ってからにしよう。いつまでも馬車から降りないわけにはいかないからね。」
エレボス伯爵家の玄関にとっくに到着していたクリスタ達。なかなか降りないラフォレーゼ一家を、出迎えに来たエレボス伯爵がオロオロした様子で待っている。
果たして、父はクリスタの自由を勝ち取ってくれるだろうか。
「さぁ、テレーゼ。」
困ったような笑みで母のエスコートをする父を見て、………無理だな、とクリスタは悟る。
「……。」
無言で父の顔を怒って睨むような顔をした母だが、馬車のドアがカチャリと開くと咲き誇る大輪の薔薇のように美しい笑顔になった。
「ラフォレーゼ大公殿下、ようこそお越し下さいました。馬車から降りられるお2人の姿はまるで1枚の絵画のように美しいですな。」
貴族の世界ではお世辞や嘘が横行しているが、目を輝かせて父と母を見るエレボス伯爵の言葉は本心だろう。
エレボス伯爵の後方の使用人達も頬を染めながら父と母を見ている。
「今日は世話になるよ、エレボス伯爵。こちらは私の妻のテレーゼだ。クリスタも降りてきなさい。」
父が馬車にいるクリスタに手を差し出し、クリスタも父の手を取って馬車から降りた。
「クリスタ=ラフォレーゼと申します。本日はお招きありがとうございます。」
クリスタが挨拶をすると、エレボス伯爵の目が更に輝いている。
「話には伺っていましたが、噂で聞くよりも遥かにお美しい。こんなにお美しい奥方とお嬢様がいらっしゃるとは、大公殿下が羨ましい限りです。」
「噂とは?」
エレボス伯爵の様子から悪い噂ではなさそうだが。父は苦笑いをしながらエレボス伯爵に問うた。
「昨年社交会にデビューされた、今は辺境伯令息となられたご子息の美しさに世のご婦人方の心が奪われまして。」
高等部に入学して初年度に正式なデビュタントとなったマシューは、学校行事と同様にリカルドと互いの母をパートナーとして社交会にデビューしたと聞いている。
「そればかりか第一皇子殿下のパートナーとなられた奥方のお美しさも女神の如く神々しくいらっしゃいました。父親である風の騎士の大公殿下もまた美形……御息女の美しさが期待されるのもまた必然でございます。御息女と同じく学園に通われている令息、令嬢から、ラフォレーゼ大公令嬢は銀の髪の乙女、風の天使と呼ばれる程に可愛らしいとの噂でごさいました。しかし、噂は噂。デビュタント前の、まだ人前に出る事のないラフォレーゼ大公令嬢を見た事のある大人は多くはありません。子供の噂など信憑性に欠けると思われましたが、いやはやなんともお美しい。正に天使。これから成長するにつれて奥方のように女神のような美しさを手に入れる事間違いなしでしょう。」
その噂のクリスタと会えて本当に嬉しいのだろう。
興奮した様子でクリスタの美しさを本人とその家族に語るエレボス伯爵の演説はその後しばらく続いた。




