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「ふっ……ふふふ。あははは!それは、すごいね。」
クリスタから貴族の令息にあるまじきマシューの狩りの様子を聞いたライムはこみ上げる笑いを抑えきれず笑い出してしまった。
「あの麗しのマシュー=リッチフォースが素手で猪を狩るなんて嘘みたいだ。」
確かにマシューは女の子が一度は憧れる王子様のような見た目をしているが、性格は祖父寄り。頭が良いのでクリスタの母のように思慮深く振る舞ってはいるが、身体を動かす方が好きなマシューは日々鍛錬を欠かさないらしい。
「あははは!」
クリスタの話を聞き、話が終わってからもライムはお腹を抱えて笑っている。
「あははっ!あははは!!」
マシューの話をしたクリスタだが、ライムは少し笑い過ぎではないだろうか。
「あはは。駄目だ。ふふふ…お腹痛い。」
確かにマシューが素手で狩りをするのは意外だけど、大好きな兄の事をここまで笑われるのは癪に障る。
「ケルンズ様。」
ムッとしながらクリスタがライムに声をかけると、ライムは笑い過ぎで涙を流しながらもしまったと言う顔をした。
「私の大好きな兄の事をそこまで笑わないで下さい。」
不愉快です、とまでは言わなかったが、クリスタの表情は本心を隠してはいない。
「ごめんね。君のお兄さんの話を聞いたら、今まで悩んでた事が吹っ飛んじゃったんだ。」
ふぅっと大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせたライムは、大きな瞳からこぼれた涙を袖で拭った。
「悩み……ですか?」
「僕の家は代々人の気持ちが何となくだけど色として見える珍しい魔法に特化した家系なんだ。だからケルンズの魔法の欲しい家かとのお見合いが多くて……。」
例外はあるが魔法の才能は遺伝による。
主に魔法を使う貴族の家には、その家々に特化した固有の魔法が伝わっていると言う。
例えばクリスタの家で言うと、ラフォレーゼ家が四大精霊と契約をする者がその血筋から産まれるように、マシューが養子となった父方の祖父のリッチフォース家の血筋は身体強化に特化しているし、母方の祖母の家の血筋は人並みはずた豊富な魔力保持者が産まれる。
だからこそ貴族は、家門の発展の為に強力な魔法の使い手を血筋に迎え入れる結婚を重要視していた。
数ある貴族の中でもラフォレーゼ家のマシュー・クリスタ・アイリーンは特に優秀な魔法の使い手の血筋が合わさったサラブレッド。引く手あまただ。
こうしてお見合いをしてはいるが、結婚する相手は親の強制ではなく、クリスタ自身で決めて良いと言われているからまだ良い。
「最近はほぼ毎週貴族の令嬢とあってる状態でさ。ちょっと疲れちゃったんだ。上昇志向の強い家の令嬢はグイグイ迫ってくるし……。でも親は良い血筋の令嬢をお嫁さんにしろって言うし。」
毎週お見合いでグイグイくる御令嬢……それは確かに疲れる。
「それは……、お疲れ様です。」
気の毒にと思うが、お疲れ様以外に言葉が見つからない。
「この魔法は洗礼を受けてから常時発動してて、僕はまだ見れないようにコントロール出来ないんだ。」
常時発動、と言う事はクリスタの気持ちも色として伝わっていたのだろうか。
クリスタはライムに会ってからの何を考えていたかを思い出すが、あざといが可愛いとかオリエンタルリリーがキレイだとか、ちょっと前世の姉を思い出したとか、笑い過ぎてムカつく位だ。
特に見えても問題ないと思いたいが、可愛いと言われるのが何よりも嫌いなマシューの事例がある。
「私、ケルンズ様のお顔を可愛いと思ってしまいました。ごめんなさい。」
「僕の魔法を知って気にする所ってそこ?!」
クリスタの謝罪がツボに入ってしまったのか、ライムは再び笑い出してしまった。




