87
「ケルンズ様、真剣な謝罪いたしましたのに、笑られるなんて……不愉快です。」
どうせ気持ちが見えるなら思っている事を顔に出しても問題ないだろうと、クリスタの表情の不機嫌さを隠す事はしない。
「ごめん。」
表情と気持ちの色でクリスタが怒っている事が伝わったらしく、ライムは素直に謝った。
「この魔法にうんざりでさ。今まで会った令嬢達は、僕の魔法を知ってても知らなくても表情と心の色が一致しないんだ。だから表情と色が一致するクリスタを見てるとホッする。」
「私は両親にケルンズ様と結婚しろとは言われていませんし、結婚する気もございません。なので隠さなければならない気持ちなどありませんわ。」
結婚を強要されていないクリスタとは違い、他の御令嬢はライムに気に入られろと言われているだろう。
ライムに気に入られなければとそう思えば思うほど、隠さなければいけない気持ちが胸の内に湧いて出てきてしまうのは人の常。特にライムに気持ちが伝わってしまうとわかっていれば尚の事だ。
「それに、知られたくない気持ちがあれば伝わらないように自分で対処します。」
こちらはサラブレッドでハイスペックな当て馬令嬢である。やってやれない事はないはず。
そんなクリスタの様子が面白いのか、ライムはクスクスと笑っている。
「ねぇクリスタ、僕と結婚しない?僕、心も言葉も正直な君を好きになったんだ。」
「?!」
クリスタが結婚する気はないと言ったばかりなのに求婚。
クスクス笑うライムの突然のプロポーズに、冗談だろうと思いつつもクリスタはドギマギしてしまう。
「クリスタって、僕の顔……好きでしょ?」
赤い顔で戸惑うクリスタにきゅるんとした笑顔で甘えるようにクリスタとの距離を縮めるライム。
あざと可愛い。
「僕の言葉…信じてよ。君のこの綺麗な髪が……正直な君が好きなんだ。」
クリスタの長い髪を手で弄び、さらにライムはクリスタとの距離を縮めてくる。
顔は可愛いが、行動が可愛くない。
「お断りします。」
男性に対して免疫のないクリスタは、戸惑い過ぎてライムを強く押し返せない。
「だめ?」
上目遣いできゅるるんと首を傾げる姿は本当に可愛いのだが、ライムの手はクリスタを抱き締めるようにクリスタの背中と腰に回っている。
「離れて下さい。」
「やだ。」
背丈がクリスタとそんなに変わらないからか、ライムの顔が近い。
「お願い。クリスタが一緒にいてくれないと…、僕もう人が信じられなくなっちゃいそうなんだ。」
クリスタを抱き締めるライムの腕にギュッと力が入った。
抱き締める…と言うよりか、縋り付くの方が正しいのかもしれない。常時人の気持ちがわかると言うのはまだ少年のライムの精神には負荷が大きいのだろう。
「離して下さい。」
「やだ。」
抱き締める力がクリスタの華奢な身体には強過ぎて苦しくて意識が遠退きそうだ。
人の気持ちがわかるならクリスタの気持ちを見て離して欲しいと考えていると、背後に人の気配がした。
「ライム様。ラフォレーゼ大公令嬢をお離し下さい!嫌がるレディになんと言う事をなさっているのですか!」
クリスタから乱暴にライムを引き剥がすと、クリスタを広い背中に庇うようにライムとの間に立つ。
「罰が必要ですね。ケルンズ侯爵家の跡取りがレディに無理強いするとは情けない。」
この声。
「ラフォレーゼ大公令嬢、申し訳ありません。」
キラリと光る眼鏡に涼やかな瞳。
2度目だが、この声!
「私はライム様の家庭教師のチェイサーと申します。私の教育が至らないばかりに失礼を…!」
キタ!シルフの推しのクーデレ眼鏡のチェイサー!!と心の中で叫びたかったが、ライムからの強過ぎする抱擁から開放されたクリスタは、安堵のあまり座り込んでしまった。




