75
「テレーゼ、クリスタの勉強を少し減らす事は出来ないだろうか?マシューの時よりも多いのではないかい?」
ここは父ブライトの書斎。
子供達はいない2人っきり部屋で、妻でありクリスタ達の母であるテレーゼと話をしていた。
「何を言ってらっしゃるの?クリスタは稀代の魔術師になれる才能を秘めていますのよ。才能を伸ばしてあげるのは親として当たり前の事でなくて?それにクリスタには第一皇子殿下や第二皇子殿下との縁談の話もあるし……淑女としての教育も外せませんわ。」
テレーゼのクリスタへの期待は大きい。
底知れぬ魔力を保持し、優秀な魔術師であるテレーゼでも成功率の低い魔法をも一度で成功させてしまうクリスタの才能。
嫉妬さえ出来ない程の才能に、親なら誰しも期待してしまうのは無理のない話である。
「クリスタに縁談など……まだ早い。それに結婚相手はクリスタ本人の意思に任せると決めていたではないか。」
「皇子殿下方との縁談ですのよ?女性としてこれ以上の縁談などありませんわ。」
「だからクリスタの意思にだな……。」
反論するブライトをテレーゼがギロリと睨む。
クリスタの縁談の話はここで終了してしまうようだ。
「コホン、話を戻すが……クリスタの勉強時間を減らす事は出来ないだろうか?」
「何故ですの?」
クリスタを優秀な魔術師に育てたいテレーゼにとって、クリスタの勉強時間はまだまだ足りない。
減らすなど言語道断だ。
「クリスタには精霊が見えない、声も聞けない。今のままでは困るのだ。」
そう、クリスタは未だ精霊の姿も声もとらえる事が出来ない。
「何が困ると?貴方やお義父様がお見えになるでしょう。困る事などありませんわ。」
クリスタが精霊と見て話せなくても、ブライトや祖父デリクがいる。2人がいなくなる頃にはクリスタも結婚して子供がいるだろう。その子供が精霊を見れれば何ら問題ないはずだとテレーゼは言う。
「そう言う問題ではない。勉強している間に、クリスタは無意識に精霊達を弾いてしまっているのだ。今まで精霊達は見えなくても側にいられるだけで良いと譲歩してくれていたが……クリスタに不満を抱き始めている。」
自然の中で風に属する精霊は数多にいるが、どの精霊もクリスタが精霊を見る事が出来なくて寂しいが、側にいるだけで満足してくれている。精霊にしかわからないが、クリスタの周りにはいつも心地好い風が吹いているらしい。
しかし、クリスタが勉強に集中していると精霊達を弾く何かがクリスタから発せられると言う。しかもクリスタの勉強時間は長く、クリスタの側にいられない時間が増えた精霊達は不満を爆発させてしまいそうになっている。
「風の精霊は自由を愛する精霊だ。いくら風の四大精霊の洗礼を受けたクリスタとは言え、風の精霊に嫌われてしまえば、心の自由を奪われ病んでしまうだろう。」
真剣なブライトの表情にテレーゼが仕方なく条件付で頷いたのは、すぐ後の事だった。




