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「さて、昨日の話だ。」
室内の冷えた空気を振り払うかのように、祖父が昨日の話を切り出した。
祖父の話によると、ヒュドールはクリスタ達ラフォレーゼ一族家のように高位の精霊の加護を受ける一族だと言う。
ただ、ここ数代クリスタの銀の髪と碧い瞳のように生まれつき因子を完全に受け継ぐ者が生まれないらしく、僅かでも因子を受け継いだ者は各地を巡り加護を受ける旅に出る決まりとなっている。
ヒュドールの一族の受け継ぐ因子の精霊は水の精霊ウンディーネ。
ヒュドールは昨日凍り付いてしまった湖にいる水の精霊の加護をもらいにラフォレーゼ領まで来ていた。
「湖を凍らせたのはヒュドールと同様に水の精霊の因子を受け継ぐ者だろう。精霊の加護を受ける身でありながら嘆かわしい。」
湖を凍らせたと言う事は湖にいた精霊はどうなってしまったのだろう。
祖父の悲しげな瞳を見ると胸が痛くなる。
「湖にいた精霊は眠っているだけ。マシューが落ちるヒュドールを受け止めた後、デリクが湖に放った風の魔法が水の精霊を守っているの。」
祖母の言葉にヒュドールが落ちてきた後の水柱を思い出す。
祖父がヒュドールが池に落ちたように思わせる為に風の魔法を湖に放ったのだが、精霊を守ると言う奇跡が起こったらしい。
「風の精霊達が湖を元通りする手助けをしてくれると言うが、湖と湖に住まう精霊が元通りになるのは10年はかかるだろう。火の精霊の力を借りればもっと早くなるが、ここまで来てもらうには最南の国にいるあの一族の後継者はまだ若過ぎる。ヒュドールがこの地で精霊の加護を受けるのは無理だな。」
「加護を受けられなければどうなるのですか?」
祖父の話に口を挟んたのはマシューだ。
「水の精霊の魔法は使えない上に跡継ぎにはなれない。我がラフォレーゼ領が銀の髪と碧い瞳を持つ者が治めるように、ヒュドールの一族もまた同じ。今回のヒュドールが襲われたのは後継者争いだろう………大きな一族であればある程後継者争いは熾烈だからな。」
祖父やクリスタがいなかったらヒュドールは命を落としていたかもしれない。
ラフォレーゼ領の跡継ぎだが後継者争いなど無縁なクリスタにとって、ヒュドールの置かれている状況がもし自分だったらと想像するだけでも恐ろしい。
「怪我をした供の者達の為に助けて欲しいと頭を下げたヒュドールは良い統治者になるだろう。人の為に頭を下げる事の出来る人間は人を思いやれる情の厚い人間だ。」
今祖父の屋敷ではヒュドールの旅に付き従っている従者の何人かをヒュドールがマシューの部屋から出ない条件で介抱している。
「ヒュドールに手を貸してやりたいとは思うが、敵対する者がこのラフォレーゼの地で、湖を凍らせてしまうなり振り構わぬ輩だ。マシューとクリスタに何かあったらと思うと………そんな奴らを相手は出来ない。」
怪我が癒えるまで匿う以上の事は出来ない。
マシューとクリスタに害が及ぶようならば、ヒュドールを敵対する者に突き出させてもらう。
ヒュドールは匿ってはいるが、人質でもあるのだ。
「この地で他に加護を受けられないかどうかを精霊に聞いてみよう。」
祖父の周りに風の精霊と、風の精霊に連れて来られた水の精霊が表れた。
「ヒュドールの瞳と同じ色。」
クリスタの目には水の精霊の瞳とヒュドールの瞳が同じ色に見える。
それを見たクリスタはヒュドールのあのキレイな瞳が悲しみに染まる事が無いと良いなと、そう思った。




