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攻略します!改め、攻略されるほうでした  作者: 志藤 みかづき
エピローグあるいは-藤 冥加編-
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サポートキャラは後悔をする

「……これで、よかったのかな」


 祝福の鐘の音が鳴り響く。

星華学園を卒業し、大学に進学し、就職をして、それから――。


 教会から花嫁と花婿が出てきて、ライスシャワーを浴びているのを遠目に眺める。

礼服に身を包んだものの、参列者たちに混ざらずに、今日の主役たちの視線から逃れるように、教会のある側とは反対の道路でぼんやり藤冥加は立っていた。


「ぼくは、ひかりちゃんには恋をしない」


 花嫁―――上地ひかり改め、水沢ひかりは幸せそうには見えなかった。

目は虚ろで、らしくもない黒いウェディングドレスを身に纏ってぎこちなく微笑んでいる。

その隣に立つ同じく黒いタキシードを身に付けた水沢鏡夜は胡散臭そうな笑みを浮かべて、ライスシャワーの洗礼に甘んじている。


「……正確には、出来なかった。ぼくが、水沢鏡夜と契約した神だから」


 藤冥加は、縁結びの神だった。

憐れに思った魂に手を貸してみれば、その魂はとんだ喰わせものだった。

縁結びたる神が好む純粋な愛はなく、一方的で、病んだ愛だった。

そうとは気づかず、全てが終わったあとに、自分が犯してしまった過ちを悟った。


 あまつさえ、サポートキャラとし人間に紛れた自分を本気で好きになってしまったひかりに、藤冥加は痛烈な後悔を覚えた。


「これは誰も……主人公であるべきひかりちゃんを幸せにしない結末じゃないか」


 水沢鏡夜が何度ループさせようと、藤冥加はサポートキャラとして、ひかりを別の男と幸せにするエンディングに導いてきた。

失敗して、バッドエンディングを迎えることもあった。その時は、少しでも安らかなる死になるように、痛覚を奪ったりもした。

別の男と幸せになっても、その途中経過でひかりは必ず冥加に恋をした。致命的なバグ。

それでも、水沢鏡夜とのエンディングは迎えさせなかった。


 だが、それは無駄なあがきでしかないと自分でもわかっていた。


 これは、縁結びの神たる藤冥加と、その契約者である水沢鏡夜の願いを叶えるための世界。

定められた運命から逃れられない。他でもない神たる己がそうしてしまった。


「ひかりちゃん。せめて、幸せに、な」


 ――――水沢鏡夜に恋をして。


 縁結びの神の願いであり、懺悔。



◆◆◆


「……?」


 ふ、とひかりは顔をあげた。


「どうしたの、ひかり」


 外に出るときは、必ず腕を組んでくる夫。

まるで逃がさないとばかり。しかし、今さらどこにも逃げられはしない。

鏡夜は、微かに瞳に光が戻ったひかりの顔を覗き込む。


「なんでもありません」


 ゆるく首を横に振る。


 誰かに名前を呼ばれた気がして、その方向を見たけれど誰もいない。

道路を車が走っているだけで、歩いている人間すらいない。


 願望が、幻聴を聞かせたのだろう。

参列者の中に、よく似た声の人がいるのかも知れない。


「藤冥加は祝いには来てくれなかったみたいだね」


 ひかりのことを誰よりもよく知っている鏡夜が、彼女の頭の片隅を未だに締める男の名前を口にする。


「……あなたと付き合いだしてから、冥加くんとは交流がありませんから」

「ああ、そうだったけ?」


 意地の悪い鏡夜の言葉に、ひかりは平坦な声で返す。


 鏡夜からチョコを受け取り、付き合い始めてから、彼はひかりを独占した。

男と言う男から―――教師は流石に許してくれたが、ひかりと目も合わすことも許さなかった。

物言いたげな目で火神が何か声をかけようとすれば、どこからともなく現れ、遮断した。

鏡夜は火神にではなく、ひかりに、「次にアイツと喋ったら消すよ」と脅した。

この世界で、鏡夜は特別の存在らしい。神様からの特典を貰っているのだという。


 そんな状況だ。

想い人の藤冥加と接触することを、鏡夜が許すはずもない。


 もともと他の男をひかりにあてがおうとしていた薄情な男。

ひかりが話しかけなければ、会話すらなかった。

自然とふたりの距離は離れ、学園を卒業する頃には、冥加はおろか、ひかりはもう月子とすら会話することもなかった。


「藤冥加はおれらの仲を祝福してくれてると思うよ?この世界のどこかで」

「そう……」

「ふふ。それよりも、嬉しいね。おれは今、一番幸せだ。ようやく世間的にも、おれとひかりの仲が認められたからね」


 こうしてライスシャワーと共に、祝いの言葉をかけてくれる参列者たちは、鏡夜の職場の人間だった。ひかり側の出席者はいない。

大学こそ進学したが、いつもそばには鏡夜がいたし、卒業してからは同棲という名の軟禁だった。


「永遠の愛を誓うよ、ひかり」

「……わたしも、誓ってます」


 見せつけるように、鏡夜は口づけ、ひかりはそれを受け入れていた。


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