↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海嶺のハウンド  作者: 水前寺鯉太郎
第4部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
71/72

第71話 想定外の焦熱、即応の突入線

第4部 第71話:想定外の焦熱、即応の突入線

 ドォォォンッ!!

 腹の底を殴りつけるような轟音とともに、模擬機関室の分厚い耐火ハッチから、紅蓮の火柱と真っ黒な爆煙が吐き出された。

 内部の空気圧が一気に跳ね上がり、キャットウォークの鋼鉄の手すりがビリビリと激しい共鳴音を立てて震える。

『――ッ! ゴハッ……!』

 無線機のスピーカーから漏れ出す、第一小隊の断末魔のような呻き。

 言葉すら発せられない激突音。そして、フレンチブルドッグ・神尾の呼吸器の面体が衝撃でずれたのか、「シューッ」というエアーの異常噴出音と、引き攣れた呼気だけが混信した電波に乗って訓練場に響き渡った。

「第一小隊が呑まれた……!」

 ハッチの外で待機していた第二小隊の面々が、その圧倒的な熱量と絶望に後退りかけた。

 その時だった。

 カチャリ、と硬質な金属音が乾いた空気を切り裂いた。

 間大輔だった。

 大輔は一切の躊躇なく、すでに背負っていた陽圧式空気呼吸器(SCBA)のハーネスを両腕で力強く引き絞り、突入の態勢を固めていた。

「……間! まだ第二小隊の進入合図は――」

 安全管理員の助教が制止しようとした言葉を、横から鋭く割り込んだビーグル・明(あきら)の怒声が上書きする。

「未燃焼ガスへの引火だ! 室内の温度が発火点を超えようとしている! 爆弾処理の現場と同じだ、このままじゃ数十秒でフラッシュオーバー(爆発的延焼)が起きて、第一小隊が全員蒸し焼きになるぞ!」

 大輔は助教の言葉など初めから聞こえていないかのように、キャットウォークの上で見下ろす源統括教官と真っ直ぐに視線を交錯させた。

 ビーグルの琥珀色の双眸に宿る、狂気にも似た決意。

 教官は『第二小隊は要救助者の救出を行え』と命令した。中にいる仲間が要救助者になったのなら、突入のタイミングは「今」しかない。

 源教官は緊急停止スイッチの上に手を乗せたまま、微動だにせず大輔を見下ろしている。

 その傷だらけの顔に感情の揺らぎはなかった。だが、鋭い牙の隙間に、わずかに獰猛な笑みが刻み込まれる。

(仲間が倒れた瞬間、理屈を捨てて地獄へ飛び込めるか。……その覚悟、炎の中で証明してみせろ)

「第二小隊、進入ッ!!」

 源の冷徹な怒号が響き渡った。

 すでに俊平が大輔の横に並び、二番ホースのラインを引き寄せている。その姿に、パグの大田原、ニューファンドランドの谷崎、黄ラブラドールの佐藤、そして元海防EODの明も一切の迷いを捨て、一斉に装備のバンドを引き絞った。

 前日の訓練で恐怖に足をすくわれ、限界の淵を覗いた第二小隊が、いま一つの生き物のように即応の陣形を組み上げる。

「俺が先頭でノズル(筒先)を持つ!」

 大輔が冷静かつ鋭く陣形を指示する。

「谷崎、俊平! 俺の後ろに入り、お前たちの体格で水圧の反動をねじ伏せろ! 佐藤と明はホースのキンク(折れ)取りと退路の確保、大田原は後方から全員の異常と残圧を監視しろ!」

「「「了解ッ!」」」

 大輔たち六頭は、一斉に空気呼吸器の面体をマズルに圧着させた。

 シュコー……シュコー……。

 犬としての生命線である体温調節(パンティング)を自ら完全に塞ぎ、分厚い耐火服の中で己の肉体を焼き切りながら、限られた空気の残圧だけで焦熱の迷宮へ挑む。

 それは、生物としての本能を捨て、救難士としての狂気を受け入れた覚悟の音だった。

 大輔を先頭にした六つの影が、猛火逆巻く漆黒のハッチへと雪崩れ込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。