番外編:【今度こそ初めてのキャンプの話を聞こう】
「お母さん、この間話していた弾薬庫での、初めての子供会のキャンプの話を詳しく聞きたかったんだよ」
僕がそう切り出すと、お母さんは「そうだったわね! キャンプっていう言葉を聞いたら、ついつい同じキャンプだけにキャンプつながりで昔の楽しかった思い出が溢れ出しちゃって、ハハハハハ……」とはにかんだ。
(お母さん、その親父ギャグはちょっと寒すぎるよ……)
画面の向こうでおじいちゃんとおばあちゃんも、なぜかジト目で画面を見つめている。
気まずくなったのか、お母さんは咳払いをして話を続けた。
「あれは小学校の低学年だったと思うけど、夏休みの初めに子供会の行事があるって聞いて、参加させてもらったのよね」
「ああたしかに、そんなこともあったわねぇ」とおばあちゃんが目を細め、おじいちゃんは「そんなのあったっけか?」と首をかしげる。
「そこで初めて『キャンプと言えばカレー』という洗礼を受けてね。お手伝いのお母さんたちと一緒に、一生懸命作ったの。外で食べるカレーは本当に美味しかったなぁ! 夜は定番のキャンプファイヤーを囲んで、みんなで歌を歌ったりした気がする」
「昔はキャンプファイヤーも気軽にできたんだね。楽しそうでいいなぁ」
「でもね、夜になると本当に周りに明かりが一切なくて、真っ暗だったのよ。当日は風が強い日で、雲も多かったから雨は降らなかったんだけど……設置されていた布製のテントが、風でバサバサとすごい音を立てて鳴るから、子供心に本当に怖かったわ」
「うわー、それは僕は絶対に嫌だな……」
「いいじゃないか、それも良い思い出だろ」とおじいちゃんが笑う。
「子供会でお世話してくれた大人たちは、夜中まで大変だったろうねぇ」とおばあちゃんがしみじみと言った。
そして、お母さんは遠い目をしてポツリと呟いた。
「……でね、一番悲惨だったのはトイレよ」
「トイレ?」
「夜中、みんなで『トイレに行きたい』ってことになって、懐中電灯を頼りに恐る恐る向かったの。そしたら真っ暗な中に、わけのわからない大きな蛾がぶわーって飛んでいて……! あまりの恐怖に、みんな用を足すどころかそのままテントに泣き叫びながら逃げ帰っちゃったのよ」
「「うわぁ……」」
「それから一晩中、大変な思いをしたわ。同じテントの子たちは怖くてほとんど一睡もできなくて、少し空が明るくなってから、決死の覚悟で急いでトイレに駆け込んだんだから。もう、その記憶しか残ってないわね」
「僕には絶対無理だ! 一晩トイレを我慢するなんて、絶対に耐えられない自信があるよ!」
自宅の団地からそう遠くない場所にあるのに、子どもにとっては大冒険すぎる本格的なキャンプ。少し羨ましい気もするけれど、やっぱり僕は絶対に行きたくない。
こうして、やっと聞けたお母さんの初めてのキャンプ話に満足しつつ、僕は心から思った。
――やっぱり、日本の綺麗で明るいウォシュレット付きの現代のトイレが、世界で一番最高だ!
お母さんの思い出話は、まだまだ尽きない。




