番外編:【どっちから行くかが、それが問題だ】
ある日のおやつを食べているときのこと。お母さんと、他愛のない会話をしていた。僕はお母さんに聞かなきゃいけないことがあったのを思い出した。
「お母さん、今度友達と一緒に、よみうりランドへ遊びに行こうって話が出てるんだけど、行ってもいいかな?」
「あら、修学旅行の前だっていうのに、大丈夫なの?それに、みんな受験の前なのにね。いいのかしらね?」「受験前の最後の息抜きがしたいらしよ
。みんなで行こうって盛り上がっちゃってさ」
「そうなのね。別に構わないけれど。あなたたちが行くとしたら、小田急線の新百合ヶ丘か読売ランド前駅からバスに乗るのかしら?」
「うん、乗換案内を見るから大丈夫だよ」
「それもそうね。お母さんが子どもの頃は、小田急側じゃなくて京王線側から行くことが多くてね。駅を降りてから、昔はすごい山を登らなきゃいけなかったのよ。でもね、すごく面白いものがあったの」
そう言って、お母さんは懐かしそうに話し出した。
当時は、京王よみうりランド駅と遊園地の間を繋ぐ、全長約200メートル、所要時間およそ6分の**「スカイロード」**という斜行式の動く歩道があったそうだ。
空港の通路にあるような動く歩道がそのまま山を登っていく感じで、その6分間の景色がとても良く、ゆっくりと進むなんとも言えないノロノロ感が好きだったという。
「あれは無料だったのかしら……うーん、さすがにタダじゃなかった気もするけれど。100円とか50円とか、すごく安かったような記憶があるのよね。正確な値段は忘れちゃったけれど、遊園地に着く前から一つのアトラクションに乗った気分だったわ」
「えー、それめちゃくちゃいいなぁ! 僕も乗ってみたかったよ」
「でも、あなたたちは小田急側から行くんだから、どっちにしても乗れないわね」
「そうだったね。もし今もあったとしても、わざわざ電車で京王線側に回らないと乗れなかったもんね」
今日もおやつの時間を彩るお母さんの懐かしい昔話を聞きながら、今の時代との違いにしみじみと想いを馳せる。
こうして、僕のなかにまた一つ、家族の記憶という新しい経験値が加わっていくのだった。
家族の思い出話は、まだまだ続いていく。




