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夏のタイムカプセル ―僕と魔法のハムの夏―  作者: Fos B


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番外編:【それぞれのお受験】

釣り大会&バーベキューの終わった夜のこと。お母さんにタブレット越しに今日の出来事を報告していたら、僕が今年はみんなお受験モードで、先生からの宿題も少なかったという話になった。すると、お母さんが自分の子供の頃を思い出したように話し始めた。

「お母さんの時はね、団地っていう環境もあってか、学年に1人か2人ぐらいしかお受験する子はいなかったわよ」

「ええっ、僕のクラスなんてほとんど半分くらいお受験するよ。それに小学校4年生位からみんな塾に通い始めるのが普通だし」

僕がそう言うと、おじいちゃんが口を挟んだ。

「この辺の子は、みんな公立の中学校に普通に行くもんだと思ってたがなぁ。私立に行くにしても、政令都市の方まで出ないと学校なんてなかったんじゃないか?」

おばあちゃんも「そうよねぇ、ここら辺はそんな感じよね」と頷く。

するとお母さんが、「そういえば、お母さんが中学の時、すごい先輩がいたのよ」と、話題を変えた。

「当時、お母さんたちが通っていた団地の中の公立中学校から、あの超有名な進学校に受かった先輩がいたの。一つ上の先輩だったんだけど。これだけでも学校中が大騒ぎで、『ええっ!?』って。本当にすごい頭いいんだねって、話題になったわ」

お母さんの話に、僕は興味津々で耳を傾けた。

「その先輩、実はすごく個性的な人だったのよ。ちょっと変わってるというか……。その進学校って、当時から自由な校風で有名で、制服もなくて私服だったらしいんだけど、その先輩、中2の時に生徒会長に立候補したのよ。周りは『受験のために箔をつけたかったのかな』なんて噂もしていたみたいだけど、今思えば、あの堅苦しい公立中学の空気の中にいたからこそ、その進学校の自由な空気に憧れて、何かを変えたかったのかもしれないわね」

お母さんは少し遠い目をして続けた。

「その先輩が生徒会長になったとき、第一回の生徒総会で、いきなりとんでもないことを提案してきたのよ。当時、駅前に大きなビルがあって、そこに子供の教育上よろしくない『不適切な看板』が掲げられていたの。当時はまだその駅も開発途中で、そういう看板が結構目立っていて……。でも、いくら中学生とはいえ、そんな看板のことを口にするのは、お母さんたちの歳だとちょっと恥ずかしいような、微妙な空気感があったわ」

おばあちゃんが「ああ、そんな看板、そういえばあったわねぇ……」と、何とも言えない顔で呟いた。

「その先輩は、『あれをうちの学校から市役所に撤廃運動をしよう』と言い出しちゃって。でも、第1回目の総会では、みんなそんな運動に関心もなくて、恥ずかしさもあってか否決されちゃったのよ。普通ならそこで終わるでしょ? でも、その先輩は違ったわ。もう一度総会を開き直して、全校生徒を熱心に説得して、なんと可決に持ち込んだのよ。その行動力と手腕はすごいとは思ったけど、結局その看板の案は生徒会の正式な決議として市役所に提出されたわ。でも、まぁ、すぐには変わらなかったわね」

お母さんは少し間を置いてから、さらにこう付け加えた。

「あ、そうそう。だいぶ経ってから知ったんだけど、その看板が載っているビルの持ち主って、なんと私のクラスメイトの実家だったのよ。よく喋ってた子の家で、お母さんのパート先の上司の人の実家だったっていう……。当時は知らなかったからよかったけど、後から知って、もし当時そのことを知っていたら、その子の気持ちを考えて複雑だったわね」

おばあちゃんは驚いた様子で「ええっ、あのお家の実家のビルだったの!? 全然知らなかったわ」と驚いていた。おじいちゃんは、昔の少しきわどい話には触れたくないのか、無言でいた。

お母さんは最後にこう締めくくった。

「結局、看板はは撤廃されなかったけれどね」とお母さんが言った。

当時のSNSもない時代の中学生が、地元の環境を変えるために大人たちに声を上げようとそこまで動くって、今考えるとすごいエネルギーだ。進学校に行った個性的な先輩も、きっと生徒会という場所で、自分たちの力で地元を少しでも良くしようと、あがいていたのかもしれない。当時のニュータウンの子供たちのエネルギーと、ちょっとした誇りを感じた夜だった。


まだまだ話は続きます

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