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夏のタイムカプセル ―僕と魔法のハムの夏―  作者: Fos B


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80/111

番外編:【一枚の卒業写真〜激動の時代を駆け抜けた女学生〜】

【御礼】

おかげさまで、本作の累計ユニークアクセス数が1,000人を突破いたしました!

いつも応援してくださる皆様のおかげです。本当にありがとうございます。

これからも『夏のタイムカプセル』をどうぞよろしくお願いいたします。


東京の家に帰る日が近づいていたある日の午後。僕はふと、何度も見返したアルバムを縁側へ持ち出した。ちょうど一仕事を終えたおじいちゃんとおばあちゃんが、休憩にやってきた。

 まったりとお茶を飲みながらアルバムをめくっていると、セピア色になった古い集合写真を発見した。寒々とした裏山に葉っぱが1つもない悲しげな大木を背景に、モンペ姿で端っこにちょこんと座っているおばあちゃんが写っている。

 前列には女子生徒が4人。真ん中にスーツを着た男の先生の5人。後列には女子生徒が4人立っている。右端には和服っぽい服の生徒も見える。他の生徒はみんなスーツを着て、足には当時の運動靴である「ズック」を履いているようだ。その中で、おばあちゃんだけが足袋に草履を履いていた。

「おばあちゃん、この写真の女の人たちが履いている靴は何? 先端にファーみたいな飾りが付いているよ。学校の先生もスニーカーのようでスニーカーじゃないし。それに、おばあちゃんだけどうして足袋に草履で、ズボンみたいなものを穿いているの?」

 おばあちゃんは懐かしそうに目を細めた。

「ああ、これはね『ズック』って言うの。今のスニーカーとは違って、靴の底が薄いゴムでできていてね。履き心地は全然違ったわよ。ファーみたいに見えるのは、つま先を補強するための布や装飾が、古くなって毛羽立っているのよ。三陸は冬はすごく寒いし、後ろの枯れ木を見てわかる通り冬の撮影だったから、みんなおしゃれも兼ねて足元に暖かい布を巻いていたの」

 おばあちゃんは少し照れくさそうに続けた。

「おばあちゃん家は妹弟が多かったから、みんなみたいにスーツやズックなんてとても買えなくてね。モンペに足袋、草履が精一杯の格好だったのよ」

「ここから、今のハム屋さんのところ(中学)まで通っていたんでしょう? 写真の校舎はそこにあったの? 大変じゃなかったの?」と僕が聞くと、おじいちゃんが代わりに口を開いた。

「大変なんてもんじゃないよ。今みたいに整備された道なんてなくてね、細い砂利道だったんだ。雨が降ると道がぬかるんで、草履と足袋だと足がびちょびちょになって、もう大変なことになったんだよ」

 おばあちゃんが付け加えた。

「それにね、おばあちゃんは下の妹弟たちがまだ小さかったから、いつも子守をしながら背負って、妹たちと一緒に学校に通っていたのよ」

「それってまるで、アニメ映画の姉妹の話みたいだね」と僕が言うと、おばあちゃんは笑った。

「本当に、昔の映画のような日々だったわよ。小さな子をおぶって勉強なんてできるわけがなくて、小学校の時もそうだったの。だから、おばあちゃんはずっと文字に対してすごいコンプレックスを持っていたのよ。この年になっても、そのコンプレックスは消えないわねぇ」

 おじいちゃんが優しく言った。

「でもね、おばあちゃんは本当に努力家だったんだよ。結婚して子供が生まれて、その子が学校に入った時に、親が字を読めなくて恥をかかせないようにって、昼間はパートで働いて、夜は家事が終わって子供が寝静まってから、毎晩少しずつ勉強していたんだから」

 僕は驚いた。

「おばあちゃん、そんな努力をしていたんだ。すごいね!」

 おばあちゃんは照れくさそうに笑い、話をそらした。

「当時はね、一般家庭でカメラを持っている人なんていなくて、入学式や卒業式の時だけ街の写真屋さんが来て撮ってくれたのよ。この集合写真も卒業記念のものね。前に何かの時に話した戦争が終わって、GHQが進めた。新しい制度で新制の中学校に入学したの。その生徒の第1期生だったわ。男女共学になって、同じ教室で学んだんだけど行事とか授業とか別々にするものがあって、特にこういう今と違って写真が貴重な時代は男女別れて写した方が人数も少ないから、今の技術と違うから、一人ひとりの顔がきちんと映るし、古い慣習が田舎だからあったから、男女が別々の方がよしとされてたのよ。だからこの少ない人数だったの。こういう時じゃないと写真は撮れなかったから、本当はおしゃれしたかったんだけどね。それにおばあちゃんは栄養不足だったのか、他の人に比べて身体がちっちゃいわよね」

 僕は笑った。

「おばあちゃん、今だったら枯木の前で写真なんて撮らないし、もっと『映える』場所で撮るよ。でも、モンペを着ているおばあちゃんが、この中で一番かわいいよ」

 その言葉に、おばあちゃんとおじいちゃんと顔を見合わせて大笑いした。

 本当に、昔の人は大変だったんだなぁと僕は思った。学校へ行くにしても今とは全然違って命がけだし、服装もモンペ、着物、スーツと様々だ。

「おばあちゃん、激動の時代に青春してたんだね」と言うと、おばあちゃんとおじいちゃんがますます楽しそうに笑っていた。そんな穏やかな昼下がりだった。


まだまだ家族の話は続きます。


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