番外編:【母が欲しかったイチゴの形をしたペンダントのおもちゃ】
スマホの操作で大爆発した、あの騒動の翌日のことだった。東京にいるお母さんと、三陸にいるおじいちゃん、おばあちゃん、そして僕。今日も魔法の箱の画面越しに、家族の顔が揃って向き合っている。
画面越しにやつれた顔のお母さんを見て、僕は「お母さん、今日もすごく疲れてるみたいだけど、どうしたの? 大丈夫?」と声をかけた。
するとお母さんは、「今日ね……私、ちょっとやらかしちゃったのよ……」と、肩を落として話し始めた。
今日は少し早めに仕事が終わったので、家に帰る途中で偶然、学生時代のクラスメートと出会ったそうだ。「暑いし、立ち話もなんだから」と近くのバーガーショップに入り、それぞれ席について向かい合わせになった途端、お母さんの目にあるものが飛び込んできた。
思わず興奮のあまり、声が出てしまったという。
「あら? そのイチゴの形をしたペンダント……。私が子供の頃、田舎のおばあちゃんの家で欲しかったのに、買いそびれたものにそっくりだわ!可愛くて、すごく欲しかったのよねえ。」
それを聞いた途端、友人の顔が鬼の形相に変わった。
「何言ってるの!? 田舎のおもちゃなんかと一緒しないでよ。これはブランド物なの! 一体いくらすると思ってるのよ、すごく失礼ね!」
と、激怒されてしまったというのだ。
慌てたお母さんは、「ごめんね、そういうつもりじゃなかったの。ただ、昔欲しかったペンダントにすごく似てたから、つい口に出ちゃって……本当にごめんね」と謝ったものの、気まずい雰囲気になってしまい、そのまま解散してしまったらしい。
お母さんはトボトボと語る。
「確かに、ブランド物と私の欲しかったイチゴのペンダントを同じように並べるつもりはなかったのよ。そう聞こえてしまったなら私が悪かったかもしれないけれど……でも、本当に昔欲しかったんだから。あのイチゴのペンダントは、手元には来なかったけど、私にとっては宝物のような思い出だったの。なんだか、昔の大切な思い出までブランド物と一緒に値踏みされて、否定されたような気がしちゃってさ……」
それを聞いたおばあちゃんが、静かに言った。
「あなたがそんなつもりで言ったわけじゃないのは分かるけれど。でも、きっとそのお友達は、自分がブランド物を持っていること自体をステータスだと思っていたんじゃないかしら。それをあなたが、あえて引き合いに出して馬鹿にされたと勘違いしちゃったのかもね」
「そうよね……。あの友達は、頭の先から足の先まで小物もカバンも全部ブランドで固めていて、それにすごく誇りを持ってる人だったから、昔からそうだったわ。私が馬鹿にしたとでも思っちゃったのかもね。本当につくづく、言葉って大切だわ……言うつもりなんてなかったのに、ただの独り言がつい口に出ちゃったものは、もう引っ込まないものね……」
画面の向こうで落ち込むお母さんを見て、僕はたまらず言った。
「お母さん、相手に勘違いさせちゃったのはちょっとダメだったかもしれないけどさ、でもそんなに怒るのって変だよ! 値段は全然違うかもしれないけれど、お母さんにとってあの買えなかったイチゴのペンダントは、まぎれもなく宝物だったんだしさ。ブランド物とおもちゃを比べてどうこう言う方がおかしいよ。本当の価値が分かってないんじゃない?」
僕の言葉を聞いて、おばあちゃんと母親は顔を見合わせた。そして、少しだけ柔らかい笑顔になって「本当にそうね」とつぶやいた。
おじいちゃんは「女同士のそういう機微は、いくつになってもよくわからんものだなあ」と、どこか他人事のように頭をかいていた。
言葉一つで、思い出が傷つくこともあれば、誰かの言葉に救われることもある。
僕も大人になったら――いや、今だって、言葉の重みや大切さをしっかり考えなきゃいけないなと、画面の向こうのお母さんを見つめながら思った。
僕たち家族の物語は、もう少しだけ続きます。




