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夏のタイムカプセル ―僕と魔法のハムの夏―  作者: Fos B


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番外編:【お父さんの小さい時のあれこれヤラカシ事件】

ある日の夕飯の後、三陸のお茶の間にはおじいちゃん、おばあちゃん、そして僕が揃っている。そして、珍しく魔法のタブレットの画面の向こうにいるのは、異国の地に赴任しているお父さんだ。

普段は離れていて、しかも妻の実家であるおじいちゃん・おばあちゃんの前だからか、画面越しのお父さんはどこか少しだけ遠慮気味に見える。

「お父さん、そういえば昔、九州にいた頃は犬を飼ってたんだよね?」

僕がそう話題を振ると、お父さんは「あぁ、そうそう……」と少し恐縮しながらも、懐かしそうにうなずいた。

「ある日、迷い犬の大きな雑種犬が勝手に家に住み着いちゃってさ。すごく賢い大きい犬だったから、お父さんは『絶対に乗れそうだな』って思って、ある日挑戦したんだよ」

「ちょっとお父さん、犬って乗っちゃいけないでしょ……」

僕は思わず突っ込んだ。

「昔は田舎だったからみんなおおらかだったんだよなァ」とお父さんが苦笑いする。

「乗れるか乗れないか、やんちゃな仲間で相談して、お父さんが一番に乗ってみようってなってまたがったんだ。そしたら犬がいきなり走り出して、案の定きれいな見事な転げ落ち方をしたんだよな。まあ怪我はなかったけど、乗れたことは乗れたんだ、やんちゃだったよなぁ。ハハハ……」

お父さんは少し照れくさそうに笑うが、こちらはヒヤヒヤする。

「危ないなぁ。今だったら大問題だよ。犬も怪我がなくてよかったね」と僕が言うと、お父さんは「ほんとだよなぁ」と小さく笑った。

「お父さんって、子供の頃は本当にやんちゃだったんだね」

「そうだな……。一度なんて、母さん(僕にとっておばあちゃん)にすごく怒られてさ。『大勢で家出してやる!』って、近所のちっちゃい子から仲間を集めて、隣町のおばさん家までみんなで歩いて行ったことがあったなぁ」

お父さんは、画面のこちらにいる義理の両親であるおじいちゃんとおばあちゃんの手前、少し気まずそうに見やりながら、昔話を続けた。

それを聞いたおばあちゃんが、茶の間で「わんぱくだったのね。」ふふっと優しく笑った。

「そうそう、大勢で…大人が困ると思って行ったんだけど、おばさん家に着いたらお茶をごちそうになってお菓子ももらって、すっかり満足して普通に帰ってきたんだ。いつもの遊びにでも出かけたのかと思って、誰もいなくなったことにすら気づいてすらいなくてさ。お菓子は美味しかったけど、大人が全然慌ててくれなくて逆にがっかりしたなぁ」

お父さんが遠い目をして言うと、僕は「どれだけ周りを巻き込むんだよ……」と呆れてしまった。

「でも、やんちゃだったのはその頃だけじゃないでしょ? その後、下町にも引っ越したんだよね?」

僕がそう話を振ると、お父さんは「そうそう」と少し調子を取り戻した。

「ちょうどその頃は、火をつけるのによくマッチを使ってさ……」

それを聞いた僕は、思わず「マッチって!」と声を上げた。

「学校でマッチの擦り方は教わったけど、使ったのはそれだけだよ。実際には使ったことないなぁ。ほんと怖そう。火事になったらどうしようって思っちゃう。友達の中には、何本も力任せに擦って折っちゃったり、せっかく火がついたのに怖くてその場で放り投げちゃったりする子もいたんだよ」

すると、おじいちゃんが驚いたように声を挟んできた。

「おいおい、最近はそんな時代なのか? マッチも使えないのかぁ?」

おじいちゃんからの言葉に、お父さんは「そうみたいなんですよ、ハハハ」と少し恐縮しつつ苦笑いする。

「そう、それでね。大人がマッチをシュッとつけるのを見てさ、それがすごくかっこよく見えたんだよ。だから真似したくなって、近所の子と一緒に仏壇からマッチをこっそり持ち出して、外でつけてみたんだ」

「ちょっとお父さん! それ危ないよ、大惨事になるじゃん!」

僕が叫ぶと、お父さんは「そうなんだよ、大変なことになったんだよ」と申し訳なさそうに頭をかいた。

「危うく火事を出すところで、小さなぼや騒ぎで済んだけど、隣のおじさんがバケツ持ってきて急いで消してくれたんだ。後から大人たちにそれはもう散々怒られたね……」

お父さんが遠い目をする横で、おじいちゃんが「昔っからやらかしてばかりだな、まったく……」とあきれたように笑い、おばあちゃんは声を立てて笑っていた。

お父さんは話をごまかすように次の話題に移った。

「お父さん、その頃は友達と自転車に乗って近くの駄菓子屋に行くのも楽しみだったんだ。めったに家では買ってもらえない瓶のジュースを飲んで、その場で瓶を返せば親にバレなかったからさ。その場で一気飲みしてよくむせたりしたなぁ。オレンジジュースなんか飲むと、舌が真っ黄色……じゃなくて真っオレンジ色に染まっちゃうんだよ。あれが体に良かったのかどうかはわかんないけどさ」

おばあちゃんが懐かしそうに僕に言った。

「そういえば、あなたのお母さんが団地にいた時も、よく自転車で駄菓子屋に行ってね。口の周りとか舌がオレンジ色になってるから、帰ってきたらすぐバレバレなのよ。本人は内緒にしようとしてるみたいだったけどねぇ」

それを聞いてお父さんは大笑いしている。

僕は「そんな体に悪そうなものは絶対飲みたくないな……」と心の中で思った。

こうしてタブレット越しに笑い合うお父さんと、三陸の茶の間にいるおじいちゃん、おばあちゃん、そして僕。

東京で留守番中のお母さんはいないけれど、異国にいるお父さんとが、画面越しにこうして和やかに言葉を交わしている。

普段は離れて暮らしていて少し遠慮気味なお父さんだけど、こうして話していると、僕と同じように――いや、それ以上にやんちゃだった子供時代がたくさんあったんだなとしみじみ感じる。

大人になって普通に生活しているお父さんからは想像もつかない話ばかりだけど、画面を挟むことで、なんだか少しだけ距離が縮まった気がした。


まだまだ、家族の昔話は続きます。


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